箱学

□一目惚れ
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「うわ、嫌な夢」

高校2年の新学期当日、なんとも嫌な過去の夢を見て、目覚めは最悪だった。

「不吉」

学校に行く気がぐっと下がったが、休むわけにもいかずに、雪乃は支度に取りかかった。

「お天気はこんなにいいのに」

と悪態をついて見上げた空は
新年度にふさわしく太陽が煌めいていていいお天気だ。

「桜でも見て行こう」

落ち込んだ気分を盛り上げる為に、雪乃は少し遠回りをして学校に向かうことにした。

雪乃の通う箱根学園のほど近くにある山かと言わんばかりの少しきつめの坂道が続く場所がある。

そこを歩きながら、雪乃は坂道の頂上で待っている光景を思い浮かべて口元を緩めた。

「きついけど...ね」

坂道がきついことへの少しの不満を口にするも、やはり待つ光景の事を思えば小さなことだと雪乃の口元は緩むばかりだ。

「つい、たぁ〜........ん?」

桜の下では誰かが寝そべって眠っている

「箱学の制服...?」

どうやら箱学の生徒のようだった。

「それにしても....イケメン」

イケメンとはあまり関わりたくないなと思いながら、雪乃は少し離れて桜の木々を見上げた。

「綺麗...」

ぼーっと見上げながら、癒されていると

「あれ?」

と声が聞こえて、雪乃はさっと視線を眠っていた彼に向けた。

「おはようございます。
綺麗ですよね、ここ」

寝心地もいいんですよ

とニコニコしている彼に雪乃は一言

「遅刻、するよ」

と踵を返せば

「あぁ、大丈夫です。
俺、これがあるんで」

と木に立てかけてあった自転車を指差した。

「それ....自転車競技部の乗ってるのと同じね」

なるほど、ならばまだ時間があるのだろうと雪乃は止めた足を動かした。

「あれ?ロード知ってるんですか?
あぁ、先輩なんですね」

そうさっとロードに跨り追いついてきた彼はニッコリと雪乃に笑いかけた。


ドキッ


そんな笑顔に鼓動が跳ねた雪乃は首を振った。

“イケメン君にドキッとなんてしない“

“だって、彼もきっと、アイツみたいに嘲笑ってるに違いないんだからっ!”


とりあえず関わり合いになりたくはないが、無視するのも感じが悪いと、横に並んでくる彼に問いかけた。

「1年生?」

「はい。ところで先輩
今何時かわかりますか?」

すっかり寝入っていたという彼はそう問いかけてきた。

「え、今?
まだ7時半過ぎよ」

ゆっくり歩いても十分間に合う時間だ
自転車の..ロードの彼なら余裕すぎて時間を持て余すのだろう。

「まだそんなに時間あるんだ。
通りで山が呼んでるわけだ」

彼はそんなことを言い出して

「それじゃあ先輩、ありがとうございました!」

と、雪乃のことなど全く気にせずに走り去ってしまった。

「あ、ちょっと..!」

と、何かを落としたことに気がついた雪乃が声をあげるも、青い髪の彼の後ろ姿はもう見えなかった。

「速い..」

練習しているのを見て知ってはいたけど、ロードって予想以上に速いんだ。







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