箱学

□真波
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風邪



「寒い....」

明け方に目が覚めると、悪寒がした。

「これ、熱出るやつ...」

しまってあった毛布をふらふらと取り出して、布団をかぶって眠った。

次に目覚めたのは、アラームの音でだった。

「ん...学校の時間...」

案の定、熱が出たようで、雪乃は気怠さをこらえて学校に病欠の電話をかけた。

「これで、ねむ、れる....」

相当熱が高いのか、気が緩んだら起き上がれなくなってしまった雪乃は、そのまま深い眠りへと落ちていった。



「ん..」

なんだろう、すごく暖かいけど
目を開いた雪乃は、目の前の光景に絶句した。

「ん?あ、起きたんだね」

雪乃が固まっていると、雪乃を抱きしめるようにして目を閉じていた真波山岳がニコリと微笑んだ。

「さん、がく?」

「うん?」

名前を呼びかければ、軽く首をかしげる真波に雪乃はパニックにだった。

「え、な、なん?な、なんでいるの⁉」

えっ?私の部屋だよね?

と視線を走らせれば、紛れもなくそれは寮の自分の部屋である。

「心配だから来ちゃった」

満面の笑みに騙されかけた雪乃は、首を振って

「ど、どうやって入ったの?」

「あぁ、なんだそういうこと」

雪乃の聞きたい事を理解した真波は緩く頷いて

「窓の鍵が開いていたので」

と言った後に、少し真剣な目で見つめてくる真波。

「ダメですよ、雪乃さん?

1階なんだから戸締りはちゃんとしないと」

変質者に入られでもしたらどうするんですか、と言う真波に。

うん、そうよね...彼氏とはいえ他人が易々と入っている今の状況に雪乃は納得しかけたが

「でもだからって...女子寮に侵入したのがバレたらどうするの?

部活できなくなっちゃうよ?」

「うーん、それは困るなぁ。

でも....雪乃さんが心配だったんだから、ナイショにしてよ」

人差し指を口元に持ってきて、ナイショ、のポーズをする真波に、
雪乃は力が抜けた。

「私が言うわけないよ。

来てくれたの、嬉しいし」

そう告げて真波を見やれば、少し驚いたような照れた顔をする真波。

そうだ、と誤魔化すように、
スポーツドリンクやらレトルトのおかゆやらゼリーやらを差し出してくる。

「雪乃さん、食べれそうですか?」

「うん、少しだけ」

そう言ってゼリーを指し示せば、
ニコニコと真波がゼリーを開封し始めて、スプーンまで手に持って

「はい、雪乃さん」

と口元にゼリーを差し出していた。

「へっ..?」

「食べさせてあげます」

ニコリ
と満面の笑みの真波。

これは、引いてくれなさそうだ。

覚悟を決めて、目を閉じて口を開けば少し冷たいゼリーが口内を滑った。

「ん、美味しい」

「良かった。

沢山食べてくださいね」

続けて、真波にゼリーを“あーん”してもらっていた雪乃だったが、口を開いても次のゼリーがやってこない。

疑問に思って口を閉じて目を開ければ、熱を帯びた真波の双眸と目が合った。

次の瞬間には口づけが降ってきて、急なことにすぐに口を緩く開けば、待ってましたとばかりに真波の舌が口内を犯した。

「っん..」

甘い声が漏れた瞬間、喉元をひやりとしたものが通過して、ゼリーを口移しされたのだと気がついた雪乃は顔を真っ赤にさせた。

「さ、山岳っ」

慌てて名前を呼ぶも、スイッチが入ってしまったのか、甘く名前を呼ばれるだけで、キスも口移しも終わらない。

次に口内に入ってきたのはスポーツドリンクで、渇いた喉に心地よかったが、雪乃は必死に真波の名前を呼んで、止めてもらおうと試みたが、その名前を呼ぶ声さえも真波を煽るようで、真波は止まらない。

「雪乃さん、かわいい」

クスっと合間に囁かれる言葉にぞくりとする。

「さんがく..」

「ヤバイな」

いつのまにか押し倒されていて、このまま最後まで?と思った雪乃の思考は、次の真波の行動で否定された。

「さ、雪乃さん。少し寝て」

そう言って離れていく真波の体温。

そしてふわりとかけられる布団に、雪乃はなんだか寂しくなって
真波の服の裾を摘んだ。

「....っ、それは、反則です」

困ったように言う雪乃は本当に困っているようで、でも雪乃を突き放せないようで

「眠るまで側にいますから」

そう言って、さっきのように抱きしめるように横に寝そべってくれた。

「山岳、ありがとう」

熱で人肌が恋しいのか、するりと真波にすり寄れば

本当にどうしよう..

と、小さなため息が一つ。

あ、迷惑だったかな?としょんぼりしながら夢の中へと落ちる寸前

「可愛すぎて、俺我慢できるのかな」

というつぶやきに、

あ、なんだそういうこと、と

雪乃は表情を緩ませて

“治ったら、山岳の言うこと、なんでもきいてあげよう”

と思ったのだった。

その緩んだ表情が可愛くて、真波は衝動的に触れるだけのキスを眠りに落ちた雪乃に贈ったのだった。





end
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