箱学

□真波
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東堂の秘策


東堂は悩んでいた

「おい真波。

明日は朝練、ちゃんと来るんだぞ?」

「わかってますよ、東堂さん」

そう爽やかに笑顔で返す、この真波山岳という1年生に。

いかにしてこの遅刻常習者である真波を朝練に参加ささせようかと、東堂はここしばらく悩んでしたのだが

「そうだ!これがいい!

ある意味奥の手だが仕方あるまい」

いい案を閃いたのか、一人頷く東堂。

「お、真波。ちょうどいいところに」

「なんですか?東堂さん。

俺、今から山に...」

「いや、真波はいいのかなと思ってだな」

「何がです?」

「篠宮ちゃんと付き合っているのだろう?」

東堂は、真波の彼女でありマネージャーである2年の篠宮雪乃の名前を出した。

「ええ。雪乃さんがどうかしたんですか?」

「それがだな。

朝練前の準備は大抵一人だろう?」

「そうなんですか?」

「そうなんだ、当番制でな。

それでだよ、真波。

2年中心に篠宮ちゃんの手伝いを率先してやっているやつらがいるんだが...」


あれは下心ありだな


そう東堂が言った瞬間真波の顔と言ったら、今までに見たこともない真剣な顔だった。

「明日は篠宮ちゃん当番だからなー。

篠宮ちゃんが心配なら様子を見に行った方がいいのではないか?」

「そうですね、東堂さん」

笑顔で言う真波だが、笑顔の裏は真っ黒そうだな、と東堂は苦笑いするのだった。




翌日

東堂の思惑通り、朝練の開始前に真波は登校してきていた。

「雪乃さん、おはようございます」

「あ、おはよ、山岳」

雪乃は笑顔で挨拶を交わしてから、驚いたように振り返った

「え?山岳⁉」

「どうかしましたか?雪乃さん」

「え、だってまだ朝練も始まってないのに..」

「東堂さんに怒られちゃって」

「そうなの?」

いつもそんなことでは治らない遅刻癖が、今回はどうしたのだろうと雪乃は首を傾げたが、あえて追求はしなかった。

“なんか山岳、機嫌悪い?”

「ねぇ雪乃さん。

俺、もう準備できてるし、手伝うよ」

「え?でも...」

「いつも誰かに手伝ってもらってるんでしょ?」

「え?あー、そうだね。

いつも誰か手伝いに来てくれるけど..」

「なら今日は俺が手伝うよ。

雪乃さんと一緒にいたいし」

「ぇ.....うん、嬉しい」

ストレートな真波の言葉に雪乃は頬を染めた。

“山岳のこういうとこ、未だに慣れないな”

そんな雪乃の反応にニコニコと笑顔を見せる真波だが、雪乃はやはり首を傾げた

「ねぇ山岳、どうかした?」

「え?なんですか?」

「うーん、なんとなくピリピリしてるような?」

雪乃の言葉に真波は笑った

「あはは、雪乃さんには敵わないなー」

「えぇ?山岳?」

「うーん、実はね、俺。

嫉妬してたんだよね」

「嫉妬?」

誰に?と、雪乃は頭上にハテナを浮かべた。

「うん、誰だか知らないけど、俺の雪乃さんと仲良く準備してる人たちに」

「えっ....⁉

で、でも皆んな親切で手伝ってくれてるだけ..」

「違うよ雪乃さん。

今だって雪乃さんのことチラチラ見てるもの。

ただの親切じゃないよ」

「でも、私は山岳と付き合ってるんだし」

「そうだけどさ。

あわよくば、みたいなことじゃないかなぁ?」

「えぇー。そんなの困るよ?」

「そうだよねぇ。俺だって嫌だし」

その瞬間の真波の顔に、雪乃は嫌な予感がした

「ならさ、俺たちの間に入る隙がないんだって見せつけてあげないとね」

ニコリと言う真波の言葉に雪乃はやっぱりと肩を落とした。

「じゃあ、手でも繋ぐ?

キスがいいかなぁ?

あとは俺のところに一番にタオル持ってきてくれる?

それから教室まで送っていくね?」

ニコニコと楽しそうに話す真波に雪乃は参ったなと頭を抱えたくなった。

皆んなの前でイチャイチャしなくてはいけないのは恥ずかしい。

「ねぇ、山岳...あのね?」

「なぁに?雪乃さん」

「私が当番の時だけでも、またこうやって朝来てくれたら、誰も寄ってこないんじゃないかな?」

「うーん、まぁそうかもね?」

「そ、それにね。

皆んなの前でイチャイチャするの恥ずかしいし..

山岳のそういう顔、他の子に見られたくないな」

「そういう顔って?」

キョトンと聞き返した真波だったが、何かに気がついたのか含みのある笑顔を雪乃に向けて

「雪乃さんが今してるみたいな顔かな?」

「えっ⁉」

「幸せで、俺のこと好きですっていう顔」

その言葉に雪乃は顔を真っ赤にして、真波のジャージを少し掴んで小さく頷いた。

「ふふ、雪乃さん可愛いや」

そう言って真波は雪乃の頬に手を添えると上向かせて

「ほんとだね。

こんな顔の雪乃さん、他の男子になんて見せたくないなぁ」

そう言って、唇にチュっと触れるだけのキスを落とした真波は上機嫌だ。

「山岳...もうっ」

「大丈夫、今は誰も見てないからさ」

「そういう問題じゃ...」

「うん、決めたよ雪乃さん。

雪乃さんが準備の日は、俺頑張るからね」

他の男子に手伝わせないでね、そうポンポンっと頭を撫でてから真波は慌てて練習に向かって行った。

少しの間ぽーっとしていた雪乃だったが、真波と話していて止まってしまっていた作業を慌てて再開したのだった。





東堂はというと...

篠宮ちゃんの当番の日だけでも来るようになったか。
うむ、上出来だな。さすがこのオレだ!

と作戦が枠に入ったことに上機嫌だったとか。



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アンケコメより「一つ年上の彼女が好きすぎる」「ヤキモチ」を拝借。

年上設定はあまり生かされてないですけども。




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