COLORFUL DAYS-色 鮮やかな日々-

□夏、君と過ごす日々
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ミーン、ミーン、ジジジ――



目の覚めるような青と入道雲。
そして蝉の声。

この時期の空は、凄く好きなのだが、暑いのは好きではない。


蝉の声が更に、暑さを増幅させてホント嫌気が差す。













夏、君と過ごす日々









「陽人先輩!!」

「うわっ!」


行き成り後ろから抱き付かれ俺の口から声が漏れる。


こんなに暑いのになんでこいつは、元気なんだ。それにスキンシップを欠かさない。
暑いのに……。



自然と溜め息が出る。


「あれ?先輩、夏バテ?」


「いや、一条は元気だなと思って…な。」




「そりゃあ、俺は元気と写真だけが取り柄だからね。」


にっこり笑う一条が可愛くて、俺は何気に頭を撫でた。

見た目より柔らかい栗色の髪が俺の指に絡まり心地良い。
最近は、会うと1回は、こいつの髪を触っている。



一条も別に嫌ではないようで黙って俺に撫でられている。


気分は大型犬と飼い主といったところか……。






「先輩、今日の部活は終わった?」


「んっ、あぁ。今日は午後の練習はないんだ。」



「えっ!?いつも午後まで練習なのに?」

「大会も終わったからというのもあるし、剛志達が……。」



「小早川先輩達が?」

「夏休みの課題が終わらなくて困ってるから午後は休ましてほしいって……。」



課題という言葉を口にした瞬間、一条の口が引き攣る。どうやら、彼も終わってないらしい。


もう、8月の中旬。いい加減、終わらせとかないと間近になって辛い目に遭うだろう。



俺は、短く息を吐くと薄く笑った。

「何が、終わってないんだ?」


「えっ!?」

きょとんとする一条。そして、苦笑して、
「英語と数A、現国、日本史、読書感想文…かな。」
と答えた。



俺の口から深い溜め息が漏れる。


「お前、それじゃ殆ど終わってないだろう?」

「うん、まぁ。でも、まぁ良いかなぁ、なんて…思ったりもして…。」


「あはは」と笑う一条に呆れながら俺は「行くぞ」と声を掛ける。



再び、きょとんとした一条の顔が目に映る。


「課題するの手伝ってやる。」

「陽人先輩が、やってくれんの!?」



「甘えるな!!それじゃ、一条の力にならんだろう。分からない所は教えてやる。さっ、さっと帰って図書館に行くぞ。」


ポカッと軽く一条の頭を殴り、説教した俺は、手を握って一旦、家に帰ろうと玄関に向かう。



すると、一条が
「待って!!」
と言って歩くのを止める。
そして「へへ」と笑った。

「カバン、部室だった。取って来るから玄関で待ってて!!」

にっこり笑ってみせた一条は、慌てて写真部の活動場所である第2美術室まで走って行く。


俺は、その背中を見送ると玄関で、ぽつねんと一条が戻って来るのを待った。


玄関入口、若干の日陰に立ち、空を仰ぎ見ながら夏らしい気候に深い息を吐く。

この季節は、無我に走るのが困難だし水分を小まめに摂らなければならないから面倒だ。
かといって、脱水や日射病で倒れたくはない。




好きなように走れないこの季節を俺は今まで好きではなかった。


「暑っ。」

日陰ど言えど、涼しいわけではなく、体操シャツの裾をたくし上げ額から流れる汗を拭いた。
露になった腹部を撫でるように吹く風は生温いが、汗のおかげで心地良く感じる。



束の間の涼しさに息を吐くと、カメラを片手に立つ一条の姿が視界の端に映る。


いつから居たんだ。



来たなら声を掛ければ良いのに……。


「どうした?」


「先輩、色っぽすぎ。もう、俺シャッター押しまくりッスよ。」



頬を薄く染めて嬉しそうに微笑む一条に俺は、照れ臭くて顔を背けた。


もう、ホント、バカップル……。


「陽人先輩、残りの夏も、2人の思い出、たくさん作りましょうね!!」


「一条の課題が終わったらな。」

破顔一笑した一条に薄い笑顔を返した俺。すると、一条は「やる気、倍増」と、嬉しそうにガッツポーズをして走り出す。


そして、グランドの半分の所で振り返ると
「先輩、早く帰りますよー!!」
叫んで俺を呼ぶ。



お前と居たら、夏もそう悪くない。


そんな事を思いながら、俺は一条の所まで走った。

 


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