夏がそろそろ終わる今日この頃、並森の一大イベントである花火大会が開かれている。そして、夏休みの宿題をどっさり残しつつも、お祭り行きたさに家を飛び出してきた私。

あとで苦しむと分かっていながらも、来てしまった理由のもうひとつは………。

そう思いながら、隣を歩いている人をちらりと見た。すると、視線に気が付いたのか目線を進行方向から私へと移した。


「どうかした?」

『いや、ツナの顔がなんか真剣だなって。』


かっこいいなんてストレートに言えず、かなり遠回しな言葉になってしまった。

だって、大好きなツナが隣にいて、しかも今歩いてるのは屋台街で、人がたくさんいるせいで自然と密着してるし、さっきから心臓がうるさく鳴っているのが聞こえるんじゃないかと、少し不安になるくらいの距離。

もう夏の暑苦しさなんて忘れるほど、私は舞い上がっていた。


「真剣なのは当たり前だろ。」

『…え?』


思いもよらない言葉に足を止めてしまった私。するとツナも足を止め、私の方へ向いた。


「だって俺達……………………迷子になったんだよ?」

『あはは、そうだったね。』

「なにがそうだっただよ。」


飽きれ口調で「こら」なんて言いながら、私のほっぺを片手でつねる。


『うーっ。痛い!つねられたとこ、なんかジンジンする!』

「そりゃそうだろ、痛くしたんだから。それより、早く獄寺君達と合流しなきゃ。」


そう、私の舞い上がりのせいで、今日来ていたいつものメンバーとはぐれてしまったのだ。


(ついてるんだかついてないんだか…。)


ツナと二人っきりていうのは嬉しいけど、そろそろ歩き疲れてきた。足も少し痛む。でも迷子の元凶でもある私が、休みたいなんて言える雰囲気じゃない。迷惑をかけることはこれ以上したくないと思いながら、靴ずれで痛む足を少し引きずって歩いていた。


「…進行方向変更!」

『え、なんで?』

「いいからこっち。」


すっと出てきた手は、私の手を掴んだ。しっかりと、でも優しく握られた手。脈のスピードがどんどん上がる心臓。夏の暑さとは違う熱さを帯た頬。


(心臓がもたないよ。)


屋台街から外れるように道を曲がり、少し階段を上がれば、木々が揺れる音だけがする静かな神社に着いた。


「ほら、座ろ。足痛いんだろ?」

『え…なんで知ってるの?』

「隣で足引きずってれば誰でも分かるだろ。」


早く、とせがまれて、境内の階段に腰を下ろす私とツナ。

人気の無い静かな場所。花火大会。二人きり……。


(……告白の絶好のチャンス!)


秘め続けていた想いを伝えるのは、今しかない!そう思うが、中々この一歩が踏み出せない。今の関係が心地よくて…でも、物足りない。そんな私は、もしかしたら我が儘なのかもしれない。

好きな相手が隣にいて、毎日顔がみれて、ときめいたりして…ふわふわとした幸せに包まれながら過ごせている。けど、何故かもう一歩近付きたいって想わせる。


(……やっぱり、もっと近くにいたい。)


隣をみれば、空を見ながらなにかを考えている様子のツナ。相変わらず私達以外、人影が見られない神社。


(よし…。)


意を決してツナの方に体を向け、口を開く。


『ツナ、ちょっと話があるんだけど…。』

「ん?…なに?」

『えっとね……その……っ。』


言葉が、出てこない。

ずっと好きで、大好きで…もっともっと近付きたいと、近くにいたいと伝えるだけなのに、いざとなったら言葉にするのが難しくて…。


「足、かなり痛むの?」


月の明かりのせいか、浴衣を着たツナは、なんだか色っぽくみえて…私の顔をのぞく仕草が、いつもよりもかっこよくみえて、私を余計にドキドキさせる。

風に揺れるすすき色の髪にみとれていたけど、慌てて我に返った。


『そうじゃないんだ!…そうじゃなくて…………………私…ツナの事が…   。』



ドーンドドーン



「好き」と、確かに言ったのに、花火によって遮られてしまった。


(もう!なんでこんなときに……。)


『あの、ツナ。聞こえてた?』


ドドーン


「えっ。あ、ごめん。聞こえなかった。もう一回言って。」



ひっきりなしに鳴る花火。綺麗に夜空を飾るそれに応援されるかのように、私はもう一度口を開いた。


『……私ね…ツナのことが……んっ…。』


私の言葉を遮ったのは、花火ではなく……ツナだった。

視界にはツナの顔しかない。そして、私の唇に押し付けられた柔らかい何か。その行為がどういうものか、理解をするのに時間はかからなかった。


『……ツ、ナ?』

「聞こえてたよ。でも、もう一回聞きたくて。」


塞いじゃったけど、なんて言いながら笑うツナと、頭がついていかない私。


『なんで、こんなこと…。』

「好きだからに決まってるだろ?」


好き、好き、好き…。
……ツナが私のことを!?


『本当に?嘘じゃない?』

「嘘じゃないよ。ずっと前から、好きだった。」

『わっ私だって、ずっとずーっと前から…大好き、だったんだから、ね………っ…。』


高ぶる感情を抑えきれず、頬に溢れ落ちる涙。だって、ツナが私のことを好きでいてくれてて、私もツナが大好きで…。


「泣いてんの?」

『だって、ツナがっ、好きだって、言ってくれて…嬉しくて……ひゃっ。』


不意に腕をひかれて、気付けばツナの腕の中。暖かくて安心するけど、今は心臓音を加速させるだけ。


「俺、嫉妬深いから。」

『…覚えておきます。』


背後には花火の音。涼しい風が私の髪をかすめながら吹いたとき、私達の影は、もう一度重なった。



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