現代怪奇考 〜屋上の生徒会〜
□〜序章:闇の囁き〜
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…少女は闇の中を走っていた。何故こんなことになってしまったのかは分からなかったが、ただ“アレ”から逃げなくてはならない。その一心でどこまでも続く迷路を走り続けた。
「……康子、ヒロぉーー!!!」
既にその傍らには存在しない友人の名前を叫び、泣きじゃくりながら走っていた少女の足が止まる。…行き止まり。
しかし、ふと扉があることに気付いた少女は急いで駆け寄りドアノブを抜くように捻った。
……ガチャガチャ……
鍵穴などどこにもない扉なのに、何故か鍵がかかっていた。
瞬間、頭が真っ白になる。
得体の知れない“何か”に追い詰められた恐怖に思考が塗り潰され、少女は自らの腕を打ち付けるようにして扉を何度も叩いた。
「出して!!誰かっ!!殺される!!早く!!早く開けてよ!!お願い早く!!」
しかし、暗闇に鉄製の扉独特の無機質な金属音が響くだけでビクともしない。
「お願いだから!!お願いだから開いて!!来ちゃうよ!!来ちゃうから早く!!」
……カサコソ……
「……!!!!」
何かが動く気配に気付き、息が詰まり声が出せなくなる。
……カサコソ……
布地が壁に擦れるような音が広がり、
……カサコソ……
…………
――ピタリ。と止んだ。
…………
――そして再びの静寂。
「…………。」
上手くやり過ごしたのだろうか。もう音は聞こえない。
「…………。」
…とにかくこの扉を開けなくては。
そう思い、振り向いた瞬間。少女は伸ばそうとした自身の右腕が無いのに気付き――
……………………。
「…この世界は不思議に満ちている。」
最初にこの言葉を耳にしたのはいつ、何処でだったか…。妙に耳に残るこの言葉が世界の真実を語った詩だと気付く者に、世界はその正体を明かす。
しかし、未だその真理にたどり着いた者がいないことから察するに、世界の方もたかが一住人に過ぎない我々に、その全貌を明かすほど愚直な存在ではないらしい。
――かくして怪奇はまた新たなる怪奇を呼び、無限の連鎖は未だ止まず、今日もまた、深淵の闇が訪れる……。