ボカロ

□苺とワンピース
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『ところで、今日なんかあんの?お気に入りの服着てくなんて』

『うん!今日ね、デートなの!』

ピシッと僕の中で何かが割れた。
顔が強張っているのが分かる。

『久しぶりだから、すっごくオシャレしなきゃって思って!最近忙しいみたいだからなかなかデートしてくれないし……。だから今日は楽しみなの!』

『へぇ…、そう』

一度も会ったことがない姉、兼好きな人の彼氏。
野郎のために用意した服だと分かると、なんかさっきまでと輝きが違って見えた。

『それじゃ、行ってくるね!』

時計を見てルンルンと鼻歌を歌いながら、僕の横を通り過ぎていく姉。
よほど楽しみなのだろう、微かに香った香水は甘いストロベリーだった。

『…!』

ミクは足を止めた。
待ち合わせの時間が押しているのは分かっていた。
でもそれ以上先に行こうとしない。
当然だ、
僕がミク姉を抑えてしまったから。

『レン君……?』

後ろから抱きしめた僕はミクの肩に顎を乗せた。
ミクはきっとびっくりしているに違いない。

『どうしたの、レン君?私、行かないと……!』

『分かってる』

姉の長い髪が風に揺れ、僕の視界を遮った。
僕は抱きしめた手に力を入れ、より密着させ姉の柔らかさを感じた。

『もしさ…』

『ん?』

『もし大きくなったら、ミク姉は振り向いてくれるのかな?』

『え?』

小さく小さく呟いた言葉がミク姉に通じたかは分からない。
僕は彼女を解放し、再びニコッと笑った。

『ジョーダン』

『え?え?なになに?』

『なんでもねーよ!ほら、早く行かねえと遅刻すんぞ』

腕時計の長針が12になりそうなことに気づき、ミクは慌てて走っていった。
それを応援するように追い風が僕の後ろから吹き始める。

『もっと大きくならなきゃな…』

僕の手には甘い苺がほのかに香っていた。




(ねぇ、レン?ミク姉になんか言った〜?)(は?なんでだよ?)(なんか帰ってきてから「大きくしなきゃ」って胸触ってるんだけど)(え?え!?どーゆこと!?)
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