ボカロ
□あなたと踊る舞踏会
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どうして今夜は満月なんだろう…
どうして私はここにいるのだろう?
『ミク姉!』
高い声で自分の名前を呼ばれたが、振り返らなかった。
振り返らずとも声の主が誰だか分かっていたし、私はそれどころではなかったのだ。
『リンちゃん…』
『んー?』
『……』
『いいよ、無理しなくて』
大丈夫だよ、と私の背中をさすってくれる。
何も言わなくても分かるなんてさすがリンちゃんだと思う。
双子の弟、レンくんは私の様子には気づかずにごちそうを食べに行ってしまった。
……レンくんらしいと言えばレンくんらしい。
『……それにしてもすごい人気だね、ミクの彼氏は』
『うん…』
私の目眩の原因…。
それは目の前にある光景。
『あら、がくぽくんってば!意外にシャイなのね。もっと女好きかと思ったのに』
『いやいや。拙者はそういったことには不慣れでして。あなた方のような綺麗な姫君の前では緊張してしまうでござる』
『お世辞がお上手ね。じゃあ今度、私が大人の世界を教えてあげましょうか?』
『もう、ルカってば抜け駆けはダメよ?私だってがくぽくんと居たいんだから』
『これはこれは。両手に花でござるな』
控えめに笑うがくぽさんだけど、明らかにこの状況を楽しんでる。
あんな綺麗なお姉さんたちと話してたら当然か…。
『がっくんの隣にいるのがMEIKOさんだね。前の交流会でデュエットしてた人だと思うよ。んで、ピンク色の髪がルカさん。あ、今、がっくんが手にキスを…』
『…!』
見ればがくぽさんがかがみ、ルカという女の手を掴んでいた。
他ボーカロイドの交流会とはいえ、挨拶代わりだとはいえ、いい気持ちはしない。
それでも私は彼らの中に入ろうとは思わなかった。
無理だと思う、私は彼女たちみたいに綺麗ではない。
『ちょっと外の空気を吸ってくるね』
そうリンちゃんに伝えると急ぎ足でその場から離れた。
瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。