ZZZ‐2
□年末の思い
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こんなにも狂おしく思う日が来るとは思わなかった。
自分が、いつになく貪欲になっていると感じる。
すぐに手を出さないのは性分と策略故だが、こんなにも焦燥感と何かに苛まれる感覚は久々だ。
「どうしたの、梅若?」
名無しさんの顔が、こちらに向けられていて心配そうにしている。
「いや」
静かに答えて目を瞑れば、名無しさんが動く気配がする。
「お疲れ様、ゆっくり寝てね」
そっと頭を撫でられる感触に、思わず呼吸が止まるかと思う。
今日は年末ということも相まって、皆が騒がしく浮かれていた。
もちろん1月の1日である明日は本家へと出向くのは当たり前だ。
そんな中、自分はといえばあちこちへ出て歩き、忙しなく動いていた。名無しさんとゆっくり話す時間もないほどだ。
「今日は、すまなかったな」
「ううん。楽しかったよ」
名無しさんの手にそっと自分の手を重ねる。
この、何気ない幸せがずっと続いていけばいいと貪欲に願う自分がいる。
「明日は、梅若が選んでくれた着物を着てリクオ君をびっくりさせちゃうもんね!」
にこにこ笑って意気込む名無しさんに、思わず笑ってしまった。
「あー、ばかにしてるでしょう」
「していない。すまない」
くっくと笑いながら名無しさんを引き寄せる。
「また明日も忙しくなる」
「うん」
お互いの体温が、うつっていく。
「もう寝よう」
「うん。おやすみなさい」
「明日の名無しさんの晴れ着、楽しみにしている」
「うん!楽しみにしてて!」
目を瞑ればもう先ほどの感情がなくなっている自分に、なんと現金なのかと心の中で苦笑する。
お前に踊らされてばかりだ。
少しだけ悔しくなって、名無しさんの額に自分の額を当てる。
この牛鬼組の頭領が翻弄されているのは名無しさんの一挙手一動だといつか気がつけばいいと思いながら。
end