単話

□傷
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【傷の癒し方】


「小龍、顔を上げろ」


黒鋼の呼び掛けに、膝に埋めていた顔をおずおずと上げる。

頬には赤く跡が付いていて、瞳は涙を堪えているからか軽く赤みを帯びていた。


「すまない」


先程から同じことの繰り返しだ。

謝っては酷く苦しそうな顔をする。

黒鋼の目が見れず、琥珀の瞳は行き場が無いように忙しなく動いていた。

はぁ、と今日で何回目かの溜め息を吐くと、黒鋼は両手で小龍の頬を包み込む。


「あのなぁ、その台詞は聞き飽きた」


他に言えねぇのか、と小龍の顔を覗き込むと、その視線から逃れるために瞼を閉じる。

小さく息を吐くと、弱々しい光を放つ瞳を黒鋼に向けた。


「今の俺には、何も言えない」

「一人で解決するまで、俺とは口きかねぇつもりか」

小龍が暗い面持ちで静かに頷く。

黒鋼の左腕をそっと優しく撫でてから、再び瞼を閉じる。







黒鋼の左腕。


服の長い袖に隠れて見えないが、そこには真っ赤に染まった包帯がある。

昼間に行った本日の謁見。

相手が女性だから油断した。そんな訳ではない。

ただ、女性は酷く痩せ細っていて、その女性の悲痛な相談に親身になって答えていたからだろうか。

泣き出した女性に小龍が駆け寄ろうとした時、黒鋼は女性の隠し持つ銀色に輝く物体に気付いた。

小龍の名前を呼んで止めるのも間に合わないと感じた黒鋼は、小龍と女性の間に割り込み自らの左腕で刃物を受けることになったのだ。


「俺が、あの時無闇に近付いたから」


今でも鮮明に思い出す。

小龍を自分の背に庇って、左腕で刃物の動きを止めた黒鋼。

刃物を伝って赤い液体がつーっと流れてくる。

女は取り抑えられ、本日の謁見は急遽終了となった。


「お前は、民の相談に親身になりすぎだ」


己自身を見失うなんて事はよくあることだ。

そのせいで、黒鋼はいつもひやひやとさせられる。


「お前に怪我がなくて良かった」


小龍の前髪をよけ、額に触れるだけのキスを贈る。

擽ったいのか少しだけ眉を寄せるのを見て、小さく笑みが溢れる。


「お前は、他に言うべき台詞があるだろう」

「………助けてくれて有り難う、黒鋼さん」


良く出来ました


そう言う代わりに、黒鋼は小龍の唇を塞いだ。






END

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