単話

□相談役
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「………別れました」






ソファーに座り、しばらく沈黙が続いていた空気を小龍は破った




「外国に…行くって」


落ち着いた声で、ゆっくりと話していく


「いつ、戻ってこられるか…分からないから……だから、別れようって」


隣に座っている黒鋼は黙って小龍の話に耳を傾けていた








数時間前───


体育の授業中、ふと小龍を見た黒鋼はなんとなく違和感を感じた

今までその勘は外れたことがなかったし、自信があった

普段通りに見えて、どこか上の空なのだ




……いつもそうだ

何かあっても、それが大きなことであればあるほど小龍は自分を殺し、いつも通りをよそおう

心配かけたくないのは分かるが周りにとってはそれはなんだか寂しい

小龍は抱え込みやすい
最早それは癖なのか

だとしたらなんて哀しい

頼ることも強さだと知らなければならない



黒鋼は誰もいない時を見計らい声をかけた


「お前、どうかしたのか?」

「え?」

「なんかぼーっとしてただろ」

「………別に…なにも…」

「うちに来るか?」

「えっ!?」

「言ったろ、話くらい聞くって」

一瞬目を見開き、目をそらして俯いた小龍の頭に手をのせ


「図書室で待ってろ。連絡いれるから」


こくりと頷いた小龍と別れ、仕事が終わった後、小龍と自宅に帰宅し今に至る




どうも今日様子がおかしかったのはコレのせいか


小龍が誰かと付き合っていたことはとっくに知っていた

相手が誰なのかも


こうしてそういった話を小龍本人から聞いていたから


「…ごめん、ね…って……」


小龍の声は震え、言葉が続かなくなってきた

黒鋼は耐えられなくて、小龍の頭に手をのせた

知っていた。小龍があのへらへらした教師の双子の弟と付き合っていたことを

こうして、そういった話を小龍本人から聞いていたから

学校でも、周りが分からないようにだが、目が合えば微笑みあっていて、幸せそうだった

本当に……幸せそうだった


「……別れたく……なかった……」


ズボンを握りしめる手に、涙がひとつ零れた


「いつまでも、待って…いられたのに……」


黒鋼は小龍を引き寄せた


「…情けない…よな……っ終わったこと、なのに……」


これからも、繋がっていたかった

恋人として

傍にいられなくても

帰りを、待っていたかった



「……けど、諦めないと…っ…いけないって」


しゃくりながら言葉を続ける小龍を、黒鋼は包むように抱きしめた


「困らせ、たく…なくてっ…背中、押して…あげたくて」

「……ああ」

「でも………行ってほし、く…なくて、わかっ…れたく…なくて。こんなっの、思っちゃ、いけない…のに」



応援したい
行ってほしくない

笑わなくては
泣きたい

好きなのに、もうこの気持ちは、想いは終わり


「本気で好きなら、そんなの当たり前だろ」


小龍の頭を撫でながら黒鋼は思う

それが悪いというなら自分はどうなのだ、と

小龍が別れたことにどこか嬉しい気持ちがあって

別れが辛くて、小龍がこんなに泣くほど愛された相手が羨ましくて


自分はなんて醜いのだろう


小龍の想いが自分に向かないことに、やるせない気持ちになる

幸せそうに微笑みを浮かべているのを見て嬉しくもあり、苛立たしくもあって

この独占欲をどうにかできないかと、自覚してから何度思ったことか

好きな相手が幸せならそれを見守ることが一番良いことだと知っている

それでも小龍が欲しいという思いが強まる一方で、どうにか近づけないかと相談役をかっていたのだ

しかし

付き合っている相手のことで悩んでいるときは、正直話を聞きたくなかった

無理やり小龍を自分のものにしてしまおうかと考えてしまったときもある






小龍の想いは

なんて、綺麗なのだろう








しばらくして泣き止んだ小龍が顔をあげるのと同時に、黒鋼は腕をほどいた


「ありがとう。こんな面倒なこと、聞いてくれて。少し、楽になった」


そういって少し赤くなった目を細め微笑みを浮かべた


「そうか」


少しでも役に立つことができたなら、いいか

黒鋼はそう思いながら小龍の頭を優しく撫でた

それが心地よかったのか目を細め、小龍は黙って受け入れている

普段は子供扱いされていると怒るのに、やっぱり満更でもなかったのか、なんて黒鋼は思う






こうして小龍の側にいられるならこの想いは秘めたままでいよう


そう心に決めて───






END
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