単話

□一本の電話
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ザアアアアア────



ガチャッ



「…ただいま……」


ひどい雨だった

風が強くて、傘をさしている意味がないくらいに濡れてしまっている


「おかえり」

「兄さん……」

顔をあげると兄・小龍がいた

風邪をひいて今日は学校を休んだのだ



……絶対言わないけれど

(鬼の撹乱って諺があるんだよな……

兄さんが風邪をひくなんて、だから雨が降ったんじゃ………)


「ほら」


小龍は持って来たタオルを弟の頭に被せ

そして、わしゃわしゃっと髪を拭き始めた


「わっ、ちょっ兄さん!!」

「じっとしてろ」


(具合が悪いのにタオルを持って来てくれたんだし……)

されるがままになることを選んだ小狼

しばらくするとタオルが取られた

ある程度髪が乾いたようだ


「具合、どう?」

「あぁ、もうだいぶ良い。あ、風呂入ってこいよ。風邪ひくから」

「うん。………え、兄さんやってくれたの!?」

「じゃあ誰がやるんだよ」

「風邪ひいてるのに!!」

「だから、もう大丈夫だって」


言いながら、小龍は小狼の荷物を持った


「よし、ご飯作るか」

「いいよっ、俺がやるから」

「いいから入ってこい」


有無を言わさない言動

(あぁ…もう元気なんだ)

小狼は1人に納得し風呂に入った









◆◇◆






ヴ───ッ、ヴ───ッ


「ん……」
(……な…に?…)


ベッドで寝ていた小龍は、携帯のバイブの音で目を覚ました


(携帯……誰?)


寝ぼけ眼でパカッと開けて確認する……ことなく電話に出た


「…ん……はい……?」

「よぉ」


(………ん?)


聞き覚えのある声……


「寝てたか……どうだ、具合は」


(くろ…がねさん!!?)


小龍はガバッと起き上がった


「え……あ、だいぶ…良い」

「嘘はつくなよ」

「……熱、多分まだある」

「…そうか。無理すんな、ゆっくり寝てろよ」


電話切れるな……

(……!)


「…あ、待って」

「なんだ?」


(……言えっ………)


「あ…あり、がとう」

「……早く治せよ」

「あぁ、それじゃ」

「おう」








◆◇◆





(思い出すだけでも気恥ずかしくなる…っ


他の人になら平気で言えるのに、変に緊張するんだよな)


火にかけた鍋を見ながら小龍は思う


(ま、言えたし)


料理をする小龍は、穏やかで優しくて、どこか照れのある表情をしていた











貴方の気持ち1つが心を暖かくしてくれる

嬉しくなる





この想いを、少しでも返せたらいいのに




想っているだけじゃ伝わらないこと

分からないことは沢山ある




難しいけれど

言葉にして伝えたい





大切だからこそ








END

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