Z*L..〜Short Story.@〜

□雪と桜と
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冬なんて季節、
来なければいいのに






〜雪と桜と〜





「う〜っ、寒ぃ!」
ロイドの小さな叫びに、空を見上げていた視線を隣に移す。
カチカチに固まりながら震えているロイドは、自分で体を抱き抱えるようにしていて。マフラーの隙間からちらっと覗く赤い鼻が、より寒さを感じさせた。
今日のメルトキオの空は薄暗い厚い雲に覆われていて、まだ昼過ぎだというのに夕方並の空の色。
風も冷たくて、強く吹く度にぴりぴりと肌が痛い。
…本格的な冬到来、か。
マフラーを鼻の辺りまでくいっと上げて、内心で独りごちる。
思えば昨年まで、今頃は南国のアルタミラにいたんだった。
雪の降るこの季節には…

あのお袋の事件以来、冬にメルトキオで過ごすことは一度たりともなかった。
ロイド達と出会って旅をするようになってからも、年中冬の国というのはフラノールくらいで。滞在中はそりゃ辛かったけど、あの時はロイドが話を聞いてくれたからまだ大丈夫だった。
今だって恋人同士になり、ずっと側にいて実は弱い俺を支えてくれている。けれど、それでも忌ま忌ましい記憶の現場であるメルトキオでは、情けないけど不安らしい。


再び空を見上げて、小さくため息をつく。
先程よりも雲は厚く暗くなっていて、今にも雪が降ってきそうだ。
(こりゃ早めに帰んねぇと…)
異様に焦っている自分を出さない様に取り繕って、少しだけ早足になったのを隠す為ロイドの手を引こうとした、その時。
「あっ‥」
ぽつぽつと、無情にも雪は降り出した。

チッと小さく、ロイドに聞こえないように舌を打つ。
焦っていたせいか、突然降り出した雪にいつもみたくポーカーフェイスが出来なくて、表情が動揺を隠せない。
歩いていた足も完全に止まってしまい、空を見上げたままその場に立ち尽くす。
止まった俺に気付いたロイドも歩くのを止めて、同じように空を見上げた。
とめどなく降り続ける雪。
視界いっぱいに真っ白の世界が広がって、思考が固まった。

このままじゃ、やばい…


「ゼロ「ロイド悪りぃ。買い忘れ思い出したんだ、先帰っててくれねーか?」
同時に話出したロイドに、いつもなら先に話すように言うけれど、それだけ言うと反対側を向いて駆け出した。
「えっ‥おい、ゼロスっ」
焦って呼び止めようと振り返るロイドに、すぐ追い付くからとだけ言ってその場を後にする。
去り際に見たロイドの心配そうに歪められた表情に、走る足を止めそうになったけど、そこはぐっと堪えて走り続けた。


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