ようこそラメールカフェ!
□祭りの夜は
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「んー、今日はもう閉めようかぁ」
日曜の夕方、客席を見渡した柊が呟くように言った。丁度近くでテーブルを拭いていた花音は不思議そうに首をかしげる。
「いつもより少ーし早くないですか?」
「今日はこれ以上開けてても人来ないよー多分」
「確かに一時間くらい前から急に客足減りましたね?」
花音は店内の時計をチラ見して言った。いつもなら週末はラストオーダーまで客足が途切れることなどほぼ無いのに。今は客席でのんびりそんな話が出来るくらいガランとしている。まあ、こんな日もあるのだろうか。
「柊さん、レジ閉めようか?」
「あー渚ちゃん。お願いするよ」
「りょーかい」
どこからか話を聞いていたのか、電卓片手にレジへ向かう渚。早めのクローズについては特に疑問を持っていないようだ。まあ良い、自分は柊の指示に従うだけだ。ふとキッチンに目をやると、食器を片し中の拓真と目が合った。拓真はにっこり笑って手をヒラヒラと振ってくる。お皿落とさないのかな。器用な人だ。
「拓真くん」
「お、目と目で通じ合うってやつやな」
「え、呼んでたの?」
「なんや、せやから来たんとちゃうん?」
がっくりと肩を落とす拓真だが、表情を見れば落ち込んでいないことはすぐ分かる。本当に調子の良い人だな。そんなことを思いながらキッチンを覗き込むと、隼人と歩もせっせと片付けに取り掛かっている。勘が良いのか、柊の性格を熟知しているのか。
「拓真くん、今日途中で客足パタッと減ったよね?」
「あー、今日はしゃあないな。日本人は昔から祭り好きやから」
「…祭り?」
05.祭りの夜は
「海咲ヶ丘祭りですか」
「そうだよー。この辺りに住んでいる人はまず足を運ぶだろうねぇ」
そう言ってサロンを外す柊。なるほど、地元で有名なお祭りがあるのか。そりゃあ人はそちらへ流れるだろう。花音はやっと納得がいったようで、腕を組みうんうんと頷いた。
「そうか、花音ちゃん知らんかってんな」
「うん、初耳ですよ」
「まあ越してきたとこやからな。しゃあないわ」
「てんちょー!」
キッチンの入り口で話し込んでいると、歩の腰に張り付いていた古都がこちらに向かって叫んだ。
「どうかした?古都ちゃん。あと叫ばなくても聞こえるからね」
「今日みんなでお祭り行くよねっ?」
ウキウキした表情を浮かべ、古都が言った。その言葉に柊は笑顔を崩さないまま首をかしげる。
「お前は何度言うたら分かんねん!」
「何さ、たっくん」
「こういう機会を利用しろって!」
「だからしてるではないかッ」
「はぁ…あかんわ」
「…拓真。最近こいつに妙な入れ知恵してない?」
「きっ、気のせいっすわ!」
歩にジロリと睨まれた拓真は、大袈裟に笑うことでお茶を濁した。その様子を見て渚は溜息を一つ落とす。
「あ、たっくんに付き合ってるヒマはないんだ!ねぇてんちょ!行くよね?去年はみんなで行ったって渚さんに聞いたもん!!」
「んーそうだったっけ?」
「柊さん、ほんとに忘れてるのか誤魔化してんのかどっちですか」
渚が怪訝そうな顔で言った。確かに去年柊は、既にラメールで働いていた渚、歩、そして高校卒業と同時に店を辞めた元スタッフ数人と共に『海咲ヶ丘祭り』へ足を運んでいた。お察しの通り隼人は不参加であった訳だが。
「あー思い出した。そう言えば行ったねぇ」
「柊さん、わざとらしい」
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