ようこそラメールカフェ!
□苦手な人
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まただ。またやってしまった。
お気に入りの腕時計に目を向けるユリ。花に水をやり始めたのが今から二十分前。水やりは五分以内に終わらせろ、何度も隼人にそう言われてきた。安定の十五分オーバー…叱られる。
普通に裏口から入ればキッチンを通ることになる。安全に中へ入るには…
「そぉーっと、そぉーっと…」
「何してんだ」
「ひゃああっ!?」
安全に中へ入るため、ユリが選んだ侵入口は休憩室の窓だった。花壇から近く、人目にもつかないためたまに利用していた。しかしそう何度も上手くいくわけがない。侵入した途端、一番会いたくない人に遭遇してしまったのだから。
いつも通り涼しい目をした彼が、ホイッパーをユリの前に突きつける。ナイフで強盗に襲われた時の銀行員の気持ちってこんな感じだろうか。…いや、それは大げさかもしれない。
「ふ、ふ、藤崎さん…!ビックリしました…」
「てめぇ、いつから泥棒になった」
「ど、泥棒!?違うんです!水やりに時間かけ過ぎちゃって、藤崎さんに見つからないようにここから…!……あ、」
「…なるほどな」
「あ、あの、その、えっと」
「このグズ!さっさとホールに戻れカメ女!!」
「す、すいませぇえええん!!」
ユリは隼人が大の苦手です。
04.苦手な人
「こ、怖かったぁ…」
「どないしたん、ユリちゃん」
「あ、拓真くん…さっきね、藤崎さんがすごく怖かったの…」
「何やいつも通りやん。あの人が優しかったらその方が怖いで」
「うぅ、確かに…」
隼人とは反対に拓真は話しやすい。面白いし、気遣いもできる。今だってユリのことを励ましてくれている、一応。
「うちも怒ったら怖いぜっ!」
「わっ、古都ちゃん」
古都は柊並みに神出鬼没。さっきまで歩のところに居たかと思えば今のように急に会話に入ってくる。
「お前は怒られる側やろ?」
「そんなことないもん!さっきだって、ゆーきさんに色目使った女を睨み付けてやったんだよ!」
「客相手に何してんねん!やめろや」
「そ、それでどうなったの…?」
「ふふふ…『可愛いね』って言ってこの飴玉を置いて行った!見事、敗北宣言を吐かせたのだッ」
そう言って高笑いする古都。誰もが彼女のように生きられたら、世界は平和になるのかもしれない。
「ある意味羨ましいわ」
「…うん」
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