Fate
□コンプレックス
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「ただ山道を歩き続けるだけってのも、しんどいもんだな」
「話せばそれだけ体力を消耗するぞ」
「体力より何より、黙々と歩くほうが疲れるっつってんだよ」
息を弾ませながら話す恵。今は午後の探索中で、合宿所から少し離れた場所を歩いている。微妙な上り坂に加え足元も悪いため、足への負担は今までよりも大きい。そんな状況で「面白いことをしろ」などと無茶振りをしてくる女子生徒会長を見て、俊二は溜息をついた。
「一ノ瀬、お前家でもそんな感じか?」
「どういう意味だ」
「そのお堅い表情は崩さねぇのかって意味だよ」
「俺にとってはこれが普通だ」
「窮屈な普通だな」
恵はあくびを一つ落とした。結局自由時間は俊二に邪魔をされたせいで、睡眠をとれなかったのだ。
「ま、おめーみたいな奴が結局は信頼されるんだよな。例え裏の顔があったとしても」
「裏の顔など存在しない」
「だから例えばの話だって」
それでも不満そうな顔をする俊二。元々機嫌が良さそうでも無かったのだが。
「あたしは正直、まだ会長として生徒から信頼されてる自信はねぇ」
「自分のことを俯瞰して見られているようだな」
「フカンって何だよ」
「客観的、と言っておくか」
「聞かなきゃ良かったよ。一々癇に障る野郎だ」
恵は歩くスピードを速めた。道は細くなり、益々足場も悪くなる。さすがに親睦合宿中この辺りまで来る学生もいないだろう。右側は緩やかな崖になっていて、落ちれば大事には至らないにしても、怪我は必須だろう。そろそろ引き返した方が良さそうだ。
「この先は行く必要もない。戻るぞ」
「やっとUターンかよ」
二人は踵を返した。
story26.コンプレックス
「ったく…最近は喧嘩もしてねぇし、クラスの奴らを脅すことも減ったってのに。どうやったら信頼を得られんだか」
「持続することが大切だ。…時間がかかる」
「ふん、第一印象から好感触のお前には、あたしの気持ちは分かんねーよ」
八つ当たりでしかない、自分でもそう思った。ただ俊二といると、自分との差を、コンプレックスをダイレクトに感じてしまう。彼が皆から信頼を得ているのは、彼自身の努力の賜物だろう。分かってはいるのだが、素直に認められない自分がいる。
「全員から信頼を得ているとは思わない」
「は?お前そりゃ全員は…」
「身近な者から信頼されていないようでは、目標にはほど遠い」
「……身近な者…」
「第一印象も最悪で、それが今でも継続中らしい」
「…一ノ瀬」
ここまで聞いて、自分のことを言われているのだと気付いた。
あたしはこいつを信頼していない…?いや、そうでは無いはずだ。
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