Fate
□それぞれの夜
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『颯太、結局生徒会選ぶんだもんなぁ』
『うん、誘ってくれた皆には悪いけど』
『はぁ…趣味にしとくには惜しいよ』
『これで倉持のレギュラー落ちも免れたし、良かったんじゃない?』
『言うねぇ。俺は安泰だって!』
『あはは』
颯太が笑うと、倉持もつられるように笑顔になった。
『で、もうすぐだっけ?合宿。いいよなぁ』
『?サッカー部だってそろそろ…』
『あほっ、こっちは女っ気ゼロなんだぞ!そっちには可愛い子ちゃんがいるじゃん』
『…………』
女子役員全員のことを指しているのだろうか、それとも誰か特定の人物のことを指しているのだろうか。後者ならば恐らく、彼が次に口にするであろう台詞は大体想像がつく。
『連絡先とか知ってんの?』
ほら来た。倉持は悪い奴ではないし、何に対しても真面目な部類に入るとは思う。それは好みの女の子に対してもだ。この場合、何に対しても真面目、というよりは行動的・積極的と言った方が当てはまるのだろうか。
『そうそう、それでさー…って、颯太?』
「颯太」
「そんな呼ばなくても、ちゃんと聞いてるよ」
「一回しか呼んでないし」
「…あ、カズ」
目の前には、「心底心外だ」というような表情の和が居た。すぐにいつもの無表情へと戻り、不満そうにキッチンへ行ってしまった。冷蔵庫を開ける音が聞こえたので、飲み物でも探しているのだろう。
ああ、そうだ。今はその倉持が羨ましがっていた合宿中だった。結構大変なのに、何なら倉持も来ればよかったんだ。彼も体力には自信があるみたいだし、力になってくれたはずだ。
まあ実際には無理な話なのだろうけど。
「いやぁ〜お風呂上りに黄昏る颯ちゃんも中々色っぽいっすねぇ」
「あはは、別にそんなんじゃないよ」
「森山くん自然乾燥派?ドライヤー使うなら今空いてる」
「うん。ありがとう、日野さん」
順番待ちをしていたわけでは無いが、空いているのなら貸してもらおう。颯太はドライヤーのある鏡の前へと移動した。
由衣は頬を染めながら、その姿を無意識に目で追っている。完璧に恋する乙女の顔だ。
Story24.それぞれの夜
「お前っ!何で電気消したんだよ!」
「俺ではない」
「シャンプー目に入っただろうが!」
「知ったことではない」
「てめぇ!」
管理者の長話から解放された会長の二人。戻ってくるなりシャワールームへ直行していたのだ。
やっと皆のいる部屋へと顔を出すも、恵はいつものように喧嘩腰で俊二に何やら文句を言っている。
「恵!戻ってくるなり喧嘩っすか!」
「喧嘩じゃねぇ苦情だ!」
「どちらにせようるさい。静かにしろ」
「あぁ?」
「そう言えばしおり、さっき廊下とシャワールームの電気消し間違えたって言ってたけど」
「何!?」
冷静に言うナツにしおりは少し考えるような顔をしたあと、照れるように頭をさすった。
「あー!そうだったそうだった!場所同じだから間違えちって!あははーめんご、恵!」
「…………」
すぐに他の作業をしていた者も振り返るほどの衝撃音が聞こえた。しおりは涙目で頭を押さえる。
「いたーい!電気くらいでひどいっすよ!」
「くらいって言うな!」
「うちが馬鹿になったのは恵が殴るからだー!!」
「葉月、今は夜も遅い。あまり騒ぐな。有川も逐一手が出る癖をどうにかしろ」
「ぶぅ」
「ちっ」
この二人に関してはこれが仲が良い証拠なのだろう。しかし、周りのことも考えてほしいものだ。俊二は小さく溜息をついた。
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