Fate
□始まり
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数時間の睡眠をとったしおりが元気よく先頭を歩く。天気も良く絶好のロケーションではあるが、荷物を運ぶには決して足元が良いとは言えない。メンバーは小石を弾きながらスーツケースを引きずった。さて、そろそろ五分経っただろうか。お目当てのコテージが見えてくる頃だ。
「ありー?コテージ無いっすねぇ」
「そこを右に曲がれば見えてくる。道が分からないのなら先頭を歩くな」
「気分はツアーの添乗員なんすよ!この日のために旗も作ってきたし!」
思い出したかのように、しおりはショルダーバッグから手作りの旗を取り出した。幼稚園生の頃、こんな感じのものを作らされた経験はないだろうか。見た目のクオリティもそれと何ら変わらない。そしてそこには「生徒会ツアー」と書かれている。
「だっせ、うわだっせ!」
「ダサくないよッ恵も同じもの作ってみればいいさ!うちの方が絶対うまいもんねー!」
「作んねーよ!」
「何でさ!!」
「本当どうでも良いことで揉めるよね。馬鹿って羨ましー」
眠そうな目を擦りながら和が呟く。恵の「ンだと!?」という声が聞こえてきたが、本人は全く気にする素振りを見せない。
俊二は溜息をつき、しおりが歩く一歩前へ出る。ちょうど曲がり角へ差し掛かったのだ。
「あー!見えてきたよぉ」
由衣の言葉に揉めていた二人も顔を上げる。この辺りの光景、確かに見覚えがある。そろそろ森の中を抜ける頃だ。
「おぉ!ホントだ、見えてきたぁあ!!」
「お前たちは先に宿泊するコテージ前まで荷物を運んでくれ」
「俊二はどちらへ?」
「合宿所の管理者へ挨拶に行ってくる。鍵もその時に預かる予定だ」
「分かりました」
Story.21 始まり
途中で俊二とわかれ、七人は宿泊予定のコテージ前にやってきた。二階建てになっており、一つのコテージに最高十名まで泊まることができる。生徒会メンバーは八名なので、今回は少し広く感じるだろう。
スーツケースを入り口付近に置き、自由になった両手を天へ伸ばす女性陣。
「ん〜…気持ちいいなぁ…久しぶりに来たけど、やっぱり良い所だねっ」
「そうかぁ?相変わらずなんもねーしよぉ」
「当たり前」
嫌そうな顔をする恵に対しナツが突っ込みを入れる。そう、これは合宿なのだ。当然娯楽施設はないし、食事も自分たちで用意しなければならない。
そして何より、この八人で数日間を共にしなくてはならない。不安要素は山積みだ。
「会長さま戻ってきたらまず何するんすかねぇ」
「とりあえず部屋決めして、この重い荷物寝室に置いた方がいいだろうね」
颯太が八つのスーツケースを見ながら言った。他のメンバーも賛同するように頷く。
五つの寝室は全て二階に揃っており、二段ベッドの二人部屋となっている。ちなみに一階はリビングのようになっていて、そこで食事や会議をすることになるのだろう。
「俊二が来ましたよ」
「あ、ほんとだ!会長さまーっ」
涼介の言葉に後ろを振り返ると、鍵を持った俊二がこちらへ歩いてくるのが分かる。
「遅くなったな」
「いえ、管理者の方はいらっしゃいましたか?」
「ああ。お前達も見かけた時には一言挨拶しておけ」
そう言って鍵穴に受け取った鍵を差し込む俊二。ガチャッという音がして扉がゆっくりと開く。
中へ足を踏み入れると、かすかに木材の良い匂いがした。
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