Fate

□心の底
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サッカー部から配布された弁当に手を付けていると、右手で箸を持ち、左手で携帯を弄る颯太の姿が目の端に映った。全く器用なものだ、しかし感心はできない。俊二の視線を感じ取ったのか颯太は苦笑いしながら携帯をポケットに閉まった。


「あはは、そんなに怖い顔で見なくても」

「食事中だ。行儀が悪いぞ」

「うん。でもこっちの状況を涼介たちにも伝えておいた方がいいでしょ?お昼も食べずに待ってたら可哀想だしさ」

「ああ…そういうことか」


確かに颯太の言う通りだ。こちらが時間が掛かっている為当然涼介たちもまだ作業中かと思い込んでいたが、そんなものは勝手な想像でしかない。


「それはすまなかったな」

「ううん、向こうが会計組だけだったら特に気に掛けたりしないけどさ。涼介は真面目だから」


現に和へ送信したメッセージには既読すら付かないんだ、そう言って笑いながら肩をすくめる颯太。颯太は大物だな、なぜこんな台詞が頭に浮かんだのかはよく分からないが、そう返しておいた。案の定不思議そうな顔をされてしまった。


「森山くん、一ノ瀬くん!遅くなっちゃった…」

「飲み物の種類多すぎだろ、あれは迷うよな」

「だよねぇ」

「上原さん、有川さんおかえり。飲み物も配ってたんだ?」

「うん、お弁当の少し後に!二人の分も貰って来たよー。お茶でよかったかなぁ…?」

「そうなんだ、ありがとう」

「悪いな」



ペットボトルを抱えて俊二らの元へやって来た由衣と恵は二人の向かいへと腰を下ろした。恵に至っては手足を投げ出し、大の字になって座り込んでいる。


「有川、何だその格好は。ビシッとしろ、恥じらいを持て」

「うっせーな、良いじゃねぇか。無給で働いてんだからこれくらい」

「理由になっていない」

「んだと?てめーのお茶、シェイクしたコーラと交換すっぞ!」

「馬鹿なことを言うな」


恵はふんと鼻を鳴らすと弁当の包装を外しはじめた。その横には幸せそうな表情でおかずをつついている由衣の姿がある。せめてこの女番長も彼女くらい素直であれば楽だったものを。


「つーか量少なくねぇ?」

「え…私には多いくらいだけど」

「少食だな由衣は」

「恵が大食いなだけだと…」


恵は食べ始めるのは一番遅かった割りに、食べ終わるのは一番早かった。ちゃんと噛んでいるのか疑わしい。恵の少し後に俊二と颯太も食べ終わり、弁当の包みを側にあったゴミ箱へと捨てた。由衣は食べるのに時間が掛かっている。未だ膝の上に弁当箱を広げたままだ。そんな中、俊二らの元に倉持がやって来た。


「颯太、もう食べ終わった?」

「あ、倉持。さっき終わったとこだよ」

「そっか。お腹落ち着いたら作戦会議に参加して欲しいんだけど。時間は取らないから」

「俺選手でも監督でもないんだけど…」

「良いじゃん、颯太の力を借りたい!」


手のひらを合わせて頼み込む倉持に、颯太は溜息を吐いた。


「役に立つか分かんないけど…分かった、行くよ」

「サンキュー」

「じゃあちょっと行ってくるね。手伝い再開する頃には戻るよ」

「ああ」

「い、行ってらっしゃい!」




stotry35.心の底




やっとのことで由衣が弁当を食べ終わった頃、三人の元へジャージ姿の女子生徒がやって来た。同じクラスである俊二は彼女の存在を知っていたが、恵は不審そうな顔で女子生徒を見つめ、由衣は首を傾げている。


「よっす一ノ瀬くん。頑張ってるかーい」

「お前、マネージャーだろう。今頃来たのか」

「失礼な。ずっと裏方の仕事してたんだから。……あ、女子生徒会の二人だ!ごめんね、日曜にわざわざ」


頬を膨らませ反論した後、恵と由衣の存在に気付いたのか声をかけてくる。


「い、いえ!」

「…何だ、サッカー部のマネージャーかよ」

「うん、花岡瑞希っていうの。えーっと……」


瑞希は名乗った後、恵と由衣の顔を交互に見てきた。穴が空くほど見つめられ、流石にイラッと来たのか恵が「何だよ」と睨む。瑞希は苦笑いした。


「ごめんごめん。…今日は会長と書記が手伝いに来てくれてるって聞いてたから、どっちがどっちなのかなーと思って」

「は?知らねぇのかよ」

「あ、えっと、彼女が会長で私が書記だよ」

「おお…!そっか、あなたが…!」


そう言うと瑞希は由衣の顔を再びじーっと見つめてきた。そう言えば、どこかで見たことあると思ったら、以前B組に行った際にベランダで颯太と話していた人だ。あの後倉持が「マネージャーは森山といる」と言っていたし、確実だろう。


「ね、書記さん。ちょっと洗濯物手伝ってよ!」

「え?」

「…花岡、それはお前の仕事だろう」

「いいじゃーん!お手伝いで来てくれたんだからさ」

「甘えるな」

「い、いいよ一ノ瀬くん!私手伝ってくるから」


由衣は立ち上がると砂埃をはらった。瑞希は笑顔を見せ、恵は「森山も由衣もお人好しだな」と溜息混じりに呟いた。
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