Fate

□最後の夜
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夢というにはあまりにも現実的で、それでもってどこかで見たことのあるような、何とも言えぬ懐かしさ。


「どうかされましたか、葉月さん」

「ふへ?あ、織田っち…」

「あまり火に近づきすぎると危ないですよ」

「火…?」


目の前は赤で埋まっていた。ここがどこなのか、この赤は何なのか、どうしてこの光景に懐かしさを感じるのか、しおりはすべてを知っていた。

ここに来て数日しか経っていないが、その数日を忙しなく過ごしていた自分たちに、考え事をする時間など与えられなかった。考えるとすれば、仕事のことだ。

元々しおりは考え事をするタイプではないし、それは苦手分野だ。しかし目の前の光景が、嫌でも心を落ち着かせてくれる。嫌でも自分の世界を作り出してくれる。今感じている懐かしさは、きっと去年の親睦合宿と映像を重ね合わせてしまっているせいだ。

それでも、何か違う。去年とは確実に何かが違った。






Story33.最後の夜






「葉月、火に近づき過ぎるな。火傷でもしたらどうする」

「会長さま」

「あと数歩下がれ」


少し離れた位置から聞こえてきた忠告に、しおりは大人しく後ろへ下がった。俊二の声はさすがによく通る。皆が一瞬こちらを見たので笑って誤魔化した。そして先ほど声を掛けてくれた涼介の隣へと並ぶ。


「ぷぷ、会長さまも織田っちと同じこといってたね」

「具体的に指示を出してくれた分、僕より優しかったですか」

「最初に気付いてくれたのは織田っちだし、五分五分っすね」

「惜しかったわけですね」


言葉とは裏腹に全く悔しそうな表情をしていない涼介に、またしおりはぷぷ、と笑みを溢した。


「何ですか」

「織田っちも意外に適当な会話ができるんすね」

「相手があなたですから、変に気遣う必要もありません」

「それって最高の褒め言葉っすよね!?」

「…ポジティブな人ですね」


去年もそうだった。合宿の締めくくりはキャンプファイヤーだった。みんなで火を囲んで、ゲームをしたりお喋りしたり、最後はクラスごとに記念撮影をして…楽しかった思い出が蘇ってくる。夢だったわけではない。しおりは確かにこの状況を経験している。





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