Fate
□ありえない
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「一ノ瀬、レクリエーション結局どうすんだよ」
恵はソファーに座り何やら資料に目を通している俊二に声を掛けた。俊二は「ああ」と答えにならない呟きを落とした後、顔を上げ考え込むような仕草を見せた。恵はそんな彼を横目に自身もソファーへと腰を掛ける。
「んだよ。そんな考え込むようなことでもなくね?意見はいくつか出てんだし」
「ああ。今は他のことを考えていた」
「はぁ?他のことって何だよ」
「大したことでは無い」
そう言うと俊二は先程行われたレクリエーションついての会議の際使われたノートを取り出した。ページをめくると会議で挙がった意見がいくつか書き込まれている。
「キャンプファイヤーは確定なんだよな?」
「毎年恒例だからな」
「めんどくせぇな。あれ無くしちまえば良いのに」
「上に言え」
俊二の言う上とは教師、校長、はたまた学園長だったりするのだろうか。言ったら言ったで怒るくせに。そんなことを考えていると、不意にノートを手渡された。
「んだよ。あたしに決めろってか?」
「違う。目を通しておけ」
「即答かよ…どっか行くのか」
「インクが切れた」
そう言うと俊二は持っていたペンの頭をカチカチと鳴らした。
「…ああ、ボールペンか」
「有川、お前今手元に無いか」
「はっ、あるわけねーだろ」
「やはりか。少しでも期待した俺が馬鹿だったな」
「んだと!そこまで言うか!?」
喚く恵を尻目に俊二はソファーから立ち上がり、階段へと向かった。ペンを取りに行くだけならそれほど時間は掛からないだろう。恵は彼が戻ってきた際に吐く悪態を思索しながら、舌打ちを打った。
Story31.ありえない
「おせぇなあの野郎…」
恵は適当に流し見したノートをテーブルに置き呟いた。意見はほとんどがしおりのもので、肝試しやら二人三脚やら色んな行事が混ぜこぜになったようなものばかりだ。まあ親睦合宿自体は自分たちが参加するわけではないのだし、この際二人三脚になったところで文句を言うつもりもないが。
「……ん?」
ふとソファーの脇を見ると、他の資料に比べ小さめの用紙が何枚か重ねて置いてあるのが目に入った。何だあれは、しかし何となく見覚えもある。恵はそう思い特に考えなしにその用紙数枚を手に取った。…ああ、そうだ思い出した。生徒会室前に設置されている意見箱専用用紙『生徒の声』だ。あいつ、合宿にまで持ってきていたのか。確かに数日間学園を離れることになるわけだし、目を通す時間がないのは分かるが…何とも仕事熱心なことだ。若干呆れながら先ほどのノートと同様に恵はそれを流し見した。
『天文学の同好会から部への昇格を認めてください』
天文学同好会って確か人数部活動の規定に達してないだろ。
『書道部です。部費への補助金をうちの部にももう少し割いて欲しいです。』
これはナツと柴崎が目通してないんじゃ意味ないな。
『織田くんラブでーす』
…デジタルはファンも変な奴が多いな。こういう場じゃねぇっての。
『どんな手を使って会長になったんだよ』
……!!
「…くそっ」
やはり未だにこういった意見はあるのか。薄々勘付いてはいたが、改めて言われると応えるものがある。しかもこんな匿名可の『生徒の声』で遠まわしに伝えてきやがって。意地でも直してやるからその気に入らない点を書けってんだ。くそが。恵は用紙を乱暴に投げ捨てた。
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