Fate

□距離の差
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さて、今日は午後からレクリエーションについて考えると俊二が言っていたはずだ。ならばそれまでの行動は制限されないということだ。しおりは朝食の片付けを済ませるや否や、コテージの外へと飛び出した。

ちなみにレクリエーションというのは親睦合宿の夜野外で行われるクラス対抗戦のお遊びのようなものだ。チームプレーでクラスメイトとの絆を深めることを目的とする。その内容も毎年生徒会が考えているのだが、今年はメンバーがメンバーなだけにどのような案が飛び出すのやら。男性陣が不安を漏らしていたことを覚えている。


「みんな失礼しちゃうなー!いつだって真剣に考えてるのにぃ」

「お嬢ちゃんそこ危ないよ!」

「ほへ?」

「足元足元」


どこからか警告とも取れる台詞が聞こえてきた。反射的に足元を見ると、グツグツと音を立てている飯盒が二つ並んでいた。ああ、ここでお米を炊いていたのか。確かにこのまま進んでいれば危なかった。忘れていたけれど、この合宿所を利用しているのは自分達だけではないのだ。しおりは飯盒を避けた後、顔を上げた。


「やあやあ青少年達!教えてくれてどうもっすー!」

「気を付けなよー!」


どうやらしおりに声を掛けてくれたのは大学生の男女グループのようだ。遅めの朝食を作っている最中のようで、良い匂いが漂っている。朝食を食べたばかりだというのに、しおりはその匂いにつられフラフラと近づいて行った。


「美味しそうっすね!」

「でしょー!」

「君高校生?」

「そっす!」


初対面の人物相手でも関係なしに打ち解けられるのがしおりの凄いところだ。
近くの川で釣り上げたのか、フライパンには下ろされて少し不恰好になった魚の身が並んでいる。ソテーを作っているようだ。外で調理しているということは日帰り客だろうか。しおりはバターの香ばしい匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。






story29.距離の差






全く、手間のかかる奴だ。俊二はいつも通りの仏頂面で合宿所内を歩いていた。今から午前中の会議を行うというのに、先程からしおりの姿が見当たらない。朝食時に言ったばかりではないか。彼女が人の話を聞かないことは既に分かりきっているのだが、何故いつも自分なんだ。あいつが居なくなる度、何故自分が探しに行かなくてはならないんだ。誰かに強いられている訳ではない為、愚痴の吐きようも無いのだが。これは一種の使命感みたいなものだろうか。


「駄目だって、しおりちゃん!」


向こうの方から彼女の名前が呼ばれた気がした。また面倒ごとでも起こしているのでは無いだろうな。俊二は嫌な予感を抱えながら、声のした方へと足を進めた。






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