Fate

□さまよう感情
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 他に意見がある人はいますか。決め事をする際のテンプレートとも呼べる言葉を口にするも、周りからの反応はいまいちだった。まあ話し合いに滞りが起きた際の決まり文句でもあるため、この反応はある程度予想はついていたが。


「うーん……種目はこれで良いと思うけど」


 出揃った意見に目を通しながら、颯太が口を開いた。良いと思う「けど」何なのか。後に続く言葉がないのは分かっているが、些細なことが気になってしまう自分自身に少し嫌気が差す。俊二と恵はまだ戻って来ない。ここらで打ち止めにして良いものだろうか。


「私も良い……と思う」


 涼介の様子を察してかナツも颯太に同意する。今ここに居るのは六人、自分を合わせた三人が良いと思っているのなら別に良いか。しかし。


「……何か……無難な意見ばかりですね」


 ふいに口から出た一言に、数名が顔をこちらへ向け不思議そうな表情をした。


「無難なら良いんじゃないかな。涼介が好きな言葉の一つでしょ、無難とか常識の範囲内とか」

「皮肉のように聞こえますよ、颯太」

「あは、ごめん。でも奇をてらったものより良いと思う。それは本当」

「まあ……そうですね」


 確かにそうなのだが、何故か物足りない。今までの涼介ならこれらの意見に納得し、満足したことだろう。そこにスパイスなど必要ないし、議論の余地など作るべきでないと考えたはずだ。


「……葉月さん、何かないですか」

「……ほへ? うち?」

「はい」


 涼介が話を振ると、しおりは素っ頓狂な声を上げ目を丸くした。そして一瞬間を置いた後、考え込むような顔をする。そこまで真剣に受け取って欲しかったわけではないのだが。上手くいかないものだ。やはり、俊二でないと駄目なのか。


「うーん、何か今日は脳が上手く働かないっすねぇ。借りもの競争駄目だったかな?」

「……いえ。良いと思いました、あなたにしては」




Story43.さまよう感情




 生徒会の雰囲気が、近頃少しずつ変化し始めているのには気付いていた。良い方になのか悪い方になのかは分からないが、何とも居心地が悪い。


「上原さんも、これで良いですね」

「あ……うん!」

「カズはどうですか」

「良いよ」

「では、これで一旦会議は終了します。会長の帰りを待ちましょう」


 休憩の合図をしても、昼休み時の教室のようにその場が騒がしくなることはなかった。一部を除き、そこまで口数の多いメンツが揃っているわけでもないからだ。その一部に含まれる恵は今はここに居ない上、しおりも先程からこの調子だ。仕方がない。


 その場からは動かずにメンバーの様子を見渡していると、頬杖をついたまま窓の外を眺めている和の姿が目に入った。休憩中彼が席を立たないのは珍しい。数秒見つめたところで和は目線を涼介の方へスライドさせ、「何」と一言呟いた。


「いえ、別に」

「なら見ないでくれる」

「購買へは行かないんですか」

「購買へは行かない」

「…………」

「さて、と」


 職場恋愛禁止にする? そんな余計な一言を添えてニヤリと笑うと、和は席を立った。我関せずのその態度と洞察力は相変わらずだ。あとあまり褒められたものではない性格も。何か言い返そうにも彼は既に部屋の外だ。涼介はそっと溜息を吐いた。
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