Fate

□天邪鬼
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「由衣、通り過ぎんなよ。着いたぞ」


 目的地である生徒会室前に辿り着いたことは明らかだったが、朝からどこかぼんやりしていた由衣は足を止めようとしなかった。恵が声を掛けたこととナツが彼女の腕を掴んだことによって、遠くにあった意識を取り戻すことに成功したようだ。由衣はハッとしたような表情で二人の顔を交互に見比べている。


「あは……ごめん、もう着いてたんだねぇ」

「しっかりしろよ。どんよりの次はぼんやりか?」

「上手い」

「やめろナツ、真顔で言われるとハズいだろ」


 二人のやり取りを見た由衣は「ふふ」と笑い声を漏らす。その様子を見た恵も自身の口角が上がるのが分かった。この数日間、友人として、仲間として、心配していなかったわけがないのだ。ナツのように側に付き添ったり、しおりのように素直な反応を見せることのできないこの不器用さに、恵自身も気づき始めていた。何故かドアノブを握る手がぎこちない由衣を眺めながら、恵の胸には複雑な感情が渦巻いていた。


「……じゃあ、開けます!」

「何で深呼吸するの」

「えっ? えっと……」


 話の途中だったが、由衣の「キャッ」という小さな悲鳴と、前触れもなく開かれた扉によってそれは中断された。扉の向こうへ目をやると、ドアノブを握ったまま目を丸くしている颯太の姿があった。


「森山! 急にドア開けんなよっ」

「あー……ごめん。まさかドアの前に居るとは思わなくて」

「気を付けろよな……それより……また何処かに行くつもりじゃねぇよな?」

「君達が遅いから様子を見に行こうとしただけだよ」


 颯太はどこか喧嘩腰な恵にも穏やかに対応すると、扉を支えつつ脇に寄り、「どうぞ」と道を開けた。こいつとだけは喧嘩ができない気がする、そんな無意味なことを考えながら何となく後ろを振り返ると、由衣がおどおどと立ち往生していた。


「……上原さん、どうかしたの?」

「こいつはドアの真ん前に居たからな。驚いたんだろ」

「あ、そうなんだ……大丈夫?」

「だ、大丈夫! 全然平気だよ!」

「そっか……それなら良かった」

「う、うん……」


 ……何だこの雰囲気は。問題があるわけではなさそうだが、お互い若干気まずそうだ。その割りには目線はしっかりと合っているし、よく分からない。恵はどこか余所余所しい書記の二人を横目に、部屋の中へと入った。その後もう一度様子を見ようと立ち止まれば、後ろから来たナツに追い抜かされてしまった。彼女が問題ないと判断したのなら、やはり問題ないのだろう。
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