MEIN

□君とみる夢の続き
1ページ/1ページ

今、こんな風に生きているなんて、想像もしていなかった。
全くもって、未来とは予測不能だ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

真っ白な雲は、青い昊にくっきりと浮かび上がり、日差しはどこまでも眩しく。
ごくありふれた、夏の日。
百合は、庭院の四阿でぱらぱらと本を捲っていた。冷水に浸した足が冷たくて、火照った身体も冷やしていくよう。

ずっと、考えていた。
あの子のために、何か親らしいことをしてやりたい。けれど、何をしてやればいいのか解らない。何をしてやれば、あの子は安心できるのだろうか。
自分も黎深も感情表現が下手で、親としての愛情を伝える術を知らない。
だから、特別なことでなくていいと思った。誰でもできる簡単なことでいいから、解ってほしくて。

遠い昔を思い出す。玖狼がまだ幼かった頃。兄二人は当てにならなくて、必然的に「譲葉」が玖狼の世話をしていた。
玖狼が幼い頃、読み聞かせてやった物語に出てくる主人公は、いつも奔放で自由だった。柵の無い自由に憧れていた。だから、いつか紅家の檻を出るためにいろいろと準備をしていたのに、いざ自由になってみるとどうするべきなのか、解らなかった。紅玉環が亡くなったとき、『百合』も『譲葉』も存在意義を失ったのだから。

「こんなところで何をしているんだ。」

頭上から降ってくるのは、傲岸な声。誰何しなくても、すぐに誰だか解る。

「何って……見れば解るだろ?読書中。」

その百合の様子をおもしろくなさそうに見遣ったあと、唐突に百合の手の中から書物を奪い取る。

「何すんのさ!?」

「ふん。こんなガキじみた本など読んでどうするんだ。」

「別にいいでしょ!コウに読んであげようと思ったんだよ。よく玖狼に読んであげてたの、懐かしかったし。」

“玖狼”と言う名前が出たところで、黎深が僅かに眉を顰める。そして、書物の表紙をじっと見つめたかと思うと、ぱらぱらと捲り、ぱたり、と閉じた。さも、くだらない、と言いたげな表情で。

「………こんなものに憧れずとも、お前は今、自由な筈だろう。」

僅かな沈黙のあとの黎深の科白に、百合ははっとする。

「大叔母様は死んだだろう。あのろくでなし男も、おまえのことを自由にした筈だ。」

そう言った黎深の表情は、少し拗ねているようだ。

――もしかして、私が遠くに行くと、思っている――?

昔から、黎深の傍に仕えてきた百合には、些細な感情も読み取ることができる。やはり、黎深は解りやすい。
百合は、くすり、と微笑を零した。

「ねえ、黎深。琵琶弾いてくれない?きみの琵琶、好きなんだ。」

だから、何処にも行かない、と。
琵琶だけじゃなくて、きみのことも嫌いじゃない、なんて決して言わないけれど。
憧れた自由。けれど、その中で、自分は異質で不安定だった。
“紅家のために生き、死ぬ。”
自分に与えられた存在意義は、それだけだった。だから、紅家にいる必要は、もうなくなったのだと、思っていたけれど。
ここには―――。

黎深と百合がいる四阿に、子供が一人近付いてくる。

「あの、百合さん、お茶にしませんか?」

お茶を運んできてくれたコウに、百合は、にっこり、と微笑む。

「あら、ありがとう、コウ。じゃあ、一緒にお茶にしましょうか。」

「はい!」

「おい、小僧。私の目の前で………いい度胸だな。」

「うわぁ、ごめんなさい!」

「こら、黎深!やめなよ!」

予想外の未来だった。
でも今は、この、かなりめちゃくちゃで少し滑稽で、多分幸せな物語の続きが信じられる。

誰かに書かれた物語ではなく、自分で書いた物語を。
そして、誰かのためでなく、自分のために生きる、未来を。
今、開ける頁とともに。
____________

ずっと続く、物語を


<あとがき>
えーと、お題が「本」だということで、ちょっと反則技を(汗)
人生を本(物語)に見立てて書いてみました。
そして初挑戦のCPだったんです。黎深×百合(+コウ)で。
このCPは甘々じゃないのにラブラブなのがいいなーと思って、書きたくなりました。多分百合姫は、黎深様と結婚して、結構幸せなのではないかと思っています。
だから、そういう雰囲気が少しでも出ていればなーと。
最後に、本当にギリギリ提出でご迷惑おかけしましたー!すみませんでしたっ!

(08.08.31 玲莉)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ