MEIN
□陽だまり
1ページ/2ページ
「邵可――は今日はいないのか」
いつものように府庫を覗いた劉輝は、奥の部屋を覗いてしょんぼりとした。本の位置が外出中を示している。府庫の他の場所にいるということはなさそうだ。
殺人的に苦い父茶と邵可とのおしゃべりが、劉輝の疲れを癒してくれるのに……と思ったとき、劉輝はそれに勝る活力源を見つけた。
彼女にそーっと近づき、後ろから抱き締める。
「しゅーれいっ!!」
「うぎゃ」
久しぶりに会えた愛し君は、なんとも色気のない声を出した。
「なっ何!?」
「秀麗、せっかく余に会えたのだから、もっとかわいい声を出してほしいのだ」
「なんだ、劉輝だったの……って悪かったわね! かわいくなくて!!」
「おっ…怒らないでくれ。そういう意味ではないのだ! 余にとって秀麗はいつも一番かわいいのだ!」
「ちょっ、こんなところでそんなこっ恥ずかしいこと大声で言わないでくれる!?」
「なら、どこならいいのだ?」
悪戯っ子のように劉輝が笑うと、秀麗は真っ赤になった。こういうところもかわいいのだと、劉輝は思う。
しみじみと眺めると、秀麗が手している本に気づいた。
「秀麗、どうしたのだ? それはもしかしなくても童話に見えるのだが」
「ん? これ? そうよ。ちょっと次の公休日に時間が取れそうだったから、子どもたちに読んであげようと思って」
「子どもたちって、道寺のか?」
「ええ、そう。もう童話って年じゃない子も多いけど……」
秀麗は本を撫でる。
「とっても美しいお話なのよ。そして、学べることも多いわ」
「そうだな」
劉輝も知っている。確か、哀しいほどに強く生きる女性の話だ。童話ながら、大人も好むと聞いた。
「え!? 劉輝、知ってるの!?」
驚いた秀麗に、
「うむ」
といって劉輝は微笑った。
「兄上が読んでくださったのだ」
思い出すのは、春の日。夏も秋も――冬の極寒の季節が一番辛く、兄が来るのを心のどこかで待っていた。
あの優しさが、春を思い起こさせるのだと思う。幼い劉輝にとって、兄は太陽のように偉大な人で、そして劉輝にだけは陽だまりのように優しかった。
内緒だよ、と言っていつも小さなお菓子をくれた。
話をしてくれて、木漏れ日の下で本を読んでくれて、そのままお昼寝……
兄が読んでくれた本は歴史の話が多くて、童話なんてなかった。ただひとつ読んでくれたのが、この話。
きっと兄も心のどこかで強い女性に憧れていたのだと思う。そうして出会えた女性に惹かれて。