クレしん


□notice
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空はもう暗くなり、街灯には明りが灯っていた。
いつも遊んでいた公園の前で足を止める。

時間が遅いせいか、誰もいない公園。

あの頃の懐かしい記憶が甦ったが、何だか哀しくて…。




「風間君」



振り向くと、息を切らしたしんのすけが立っていた。

「あ、急にごめんな。ちょっと用事が―」
「ホントに?」

真直ぐに見つめる瞳に、僕は嘘が見抜かれるのではないかと、視線を逸した。



「…嘘、でしょ?」

「っ、違っ―」

顔を上げると、しんのすけが笑っていた。

「やめなよ。風間君は嘘が下手なんだから」

バレバレだよ、と言って頭に手を乗せられた。

いつの間にか、自分より背が高くなったしんのすけ。

乗せられた手は、昔と変わらず暖かく。



「風間君さぁ、俺の事好きでしょ?」



その優しげな声に、観念した僕は



「嫌いじゃないさ。だって、お前は僕の親友だから」



と、今まで言えなかった言葉を口にした。

さっきの居心地の悪さも、友達を取られた独占欲からだと。



「違うよ、風間君。そんな顔でそんな事言うのは―」

頭に乗せられていた手が頬にかかる。





唇に柔らかな懐かしい感触。





「こういう風に、すきって事でしょ?」





一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

目の前のしんのすけは、名残惜しそうに手を離した。

触れていた所から熱くなり、やがて全体に広がって行く。

「ははっ、風間君てば顔真っ赤」

「なっ!しんのすけ―」


ファーストキスだったのに、と抗議の声をもらしたが、しんのすけはいつものニヤけた顔で言った。



「今さら何言ってんの?どのみち、始めては俺だったでしょ?」





そうだった。



既に奪われていたではないか。



唇も、心も、あの頃に。




認めてやる。





僕は、お前が好きなんだ。








もう少し一緒に居たかったから、公園のベンチに腰を下ろした。

「あ、そういえば」

鞄から携帯電話を取り出すと、電源を入れた。

「番号、まだ聞いてなかったな」

「ん?それなら―」

登録の準備をしていると、メールが入った。

受信時刻は3時間前。

開いてみると、



『携帯買ったよ。風間君と同じ会社にしたからね。いっぱい話そうね。
野原しんのすけ』



「買ってから、すぐにメールしたんだ」





「まだ、風間君しか登録してないよ」

と、笑うしんのすけ。





自分が特別なんだ、と自覚させられ、何だかとても泣きたくなった。





end
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同性に対する独占欲は誰にもありますよね?ね?


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