古キョン


□be warmhearted
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「お鍋の季節になりましたねぇ」

古泉が、土鍋をなでている。

因みに、ここは古泉の自宅で、俺は夕食をたかりに来ているわけなのだが…。

「古泉」

「はい」

「季節は秋だ。紅葉の季節だ」

「綺麗ですよね」

「涼しくはあるが寒くはないよな?」

「過ごしやすくなりましたよね」

「鍋は早くないか?」

「いいえ」

即答。

駄目だ。聞く気ないな。


暇なので、横から見物させて頂くことにしよう。

手際よく材料を切り分け、土鍋に放り込むと、コンロにかけた。

こいつは、意外にもエプロンが似合う。

コンビニと友達かと思っていたが、スーパーの方が仲良しのようだ。

色々ご馳走になったが、洋食よりも和食が好きらしいことがわかった。


「今日は何だ?」

「豚汁と炊き込みご飯ですよ」


どうやら土鍋では豚汁を作っているらしい。

「こうやって、土鍋で作るとよく味が染みるんです」

「へぇ」


使い始めたきっかけは『アルバイト』らしい。

呼び出され、戻って来てもまだ温かかったからだそうだ。




その話をした時の古泉は切なげに笑っていた。



『何だか、嬉しかったんです』



『最近は、貴方が来てくれるから、食事が美味しくって』



なんて言われたら、ほっとけないだろ?



もちろん、同じ一人暮らしであろう長門や朝比奈さんに言われたら、喜んでお付き合いさせて頂くが、今の所そんなお誘いは受けていない。


残念。




―pipipi




電子音が響いた。

炊飯器かと思ったが、違ったようだ。

携帯を見ると、古泉の眉間にシワが寄った。

「…すみません。あの――」

「いいから、早く行ってこい。…待っててやるから」

古泉は一瞬驚き、そしてすぐに笑顔を見せた。

「ありがとうございます」



――じゃあ行って来ますね











と、古泉の背中を見送ってから2時間。

俺の携帯に1通のメール。

『すみません。機関の用事でもう少しかかります。ご都合が悪ければ、お帰り下さって構いません』

なんだそりゃ。



まだ手付かずの夕食を見る。

親には食べてくると言ってあるから、家に帰っても食事はないだろう。

かと言って、人様の家で一人だけ食事する気にはなれない。





俺は古泉にメールを送った。



『待っててやるから泊めろ』











返事を待たず自宅に電話し、泊まってくると伝え電話を切ると、古泉からメールが入った。



『喜んで』






ほらな。こいつは断らないから。











「只今戻りました」

「おぅ。お帰り」

「すみません。お待たせして…」

申し訳なさそうな顔で帰宅した古泉を見る。

怪我はしていないようで、俺は少し安堵した。

機関に用事と聞き、何かあったのかと心配していたことは黙っておく。



「風呂とタオル借りたぞ」

「え、あの」

「先に風呂入れ。その間に飯用意しとくから」

「あ、はい」



古泉は、言われるがまま風呂場に向かった。

オカンか。俺は。











古泉が風呂から上がってきたので、食卓に促す。

「さっさと座れ。腹減った」

「はい。お待たせしてすみません」



気持ち悪いくらいの笑顔を向けて、古泉が食卓についた。

「気持ち悪い。笑うな」

「だって、嬉しいじゃないですか」





気持ちは、わからなくはない。

一人で過ごすのに、この家は広すぎる。





「「いただきます」」





温かい食事と目の前の笑顔。





特に会話のないまま箸を進める。





「フフッ。新婚さんみたいですね」

「っ、寝ぼけるな」





急な古泉の発言に、耳が熱くなるのを感じて、俺は慌てて冷たい水を飲み干した。

見ると、古泉の頬も少し紅くなっていたが、料理のせいだと思うことにした。







end
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うちの土鍋割れちゃつた記念ネタ。
うちの古泉はお料理上手です。

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