古キョン


□yearn for
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始めは、ただ興味だけだった。





いつの間にか、気になって。





気がついたら…。





【yearn for…】





「弱い」

通算何敗目かの勝負のあと、彼はいつもの不機嫌そうな顔で言った。

「ははっ、すみません」

実際に僕自身、先を読むゲームは苦手だから、負けて当たり前。

『古泉一樹』は、こういう頭を使うゲームは、得意でなければならないはずだけど、こればかりは仕方がない。

「お前さぁ、なんで弱いのにこんなにゲーム持ってんだ?」

「フフッ。下手の横好きといいますか、好きなんです」

「勉強はできんのにな」



勉学に関しては『能力』が発生してから『機関』で叩き込まれた。


いつか必要になるから、と。


過去の自分を覆い隠した。


友達と遊んだり、家族と暮らしたり。


そんな『普通』の自分を…。





「次のゲームは俺が選んでいいか?」

「あ。えぇ、どうぞ」

オセロを片付け、彼はロッカーに向かう。

彼は不思議な人だ。



僕自身、彼といると『古泉一樹』から『自分』を引き出させられる。



ボードゲームがいい例だ。



対戦表に書き込まれていく黒星。



それは、彼の前で本当の自分を見せた数。



「古泉」

不意に名前を呼ばれた。
彼の事を考えていた為か、鼓動がはねる。

「何でしょう?」

平静を装い、彼の方を見た。

手にしていたのは、通学鞄。

「今日はさ、ハルヒ達も戻って来ねーみたいだから、帰ろうぜ」

「え?」

「メール来てたぞ」

「あ、そうなんですか。わかりました」

「早く持て。お前の鞄重たいんだよ」

言われるがまま、鞄を手にし部室を後にした。



夕焼けの綺麗な通学路。
特に会話のないまま坂を下る。



彼らと過ごす日常は、あの頃のようで。




普通じゃない自分を痛感する。



「お前さぁ」

坂の中腹で彼が話しかけてきた。

「負け続けてる割には、嬉しそうだよな。いつもと違って」

「え?」



不思議だった。

いつも笑顔を心掛けていた筈なのに、どうして。


「何故そんな事を」

「あー、なんつーかさ」

言葉を探すように、空を見上げた後、言った。





「あのお前は本物だろ」




あぁ『神』もこんな気分だったのだろうか。





理解して貰えることの心地よさ。





独りきりから、開放されたような。





『神』が彼を選んだ。





その感情が、僕の中にも…。





芽生えてしまったようだ。





end


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古キョン2作目。

難しいです

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