古キョン
□sweet-smelling
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嬉しかった。
帰ってこないかと思っていた朝比奈さんが戻って来たし、更に待望の『謎の転校生』は男子らしいじゃないか。
どんな奴かは知らないが、男子部員が来てくれるのは有り難い。
谷口曰く、Aランクの美人揃いとはいえ、やはり男一人は居心地が悪いからな。
《sweet-smelling》
「初めまして。古泉一樹です」
現われた奴は、ハンサムフェイスのスマイル君だった。
何となく敗北感を味わいながら、出された手を握る。
フワリと漂う微かな香りが鼻腔をくすぐった。
男の癖にイイ匂いさせやがって。
「あぁ、これですか?クローゼットに防虫用のポプリを入れてるんです」
女性陣の衣裳替えで追い出された時、俺は奴に尋ねてみた。
「防虫剤でいいんじゃねぇか?」
「うーん。僕はアレの匂いがダメでして…」
困った様に笑いながら、特に必要ないからと付け足した。
「まあ、このポプリも効果が切れてきたら、止めますけどね」
「せっかくイイ匂いだから、また買えばいいのに」
言ってしまってから何だが、何で男にこんな事言わなきゃなんねーんだ。
よし、今度朝比奈さんにも言ってみよう。
「って、近い」
気付くと、奴は俺との距離を縮めていた。
「いえ、せっかく褒めて頂いたから、もう少し堪能してもらえれば、と思いまして」
確かに、さっきより香りが強くなった。
香水よりも優しくて、落ち着く香り。
「良かったら、少しお分けしましょうか?」
「…。いらん」
「それは残念」
一瞬、それも悪くないかなと考えたが、良く考えたら、こいつと同じ匂いをさせることになるじゃないか。
駄目だ駄目だ。朝比奈さんならともかく、こんなうさん臭い笑顔の奴と一緒の香りをさせるなんて。
「でも、少し移ってますよ」
「は?」
慌ててブレザーの袖を嗅ぐ。
確かに、ほんのり奴の匂い。
「お前なぁ、近いんだよ。少し離れてろ」
「これは失礼」
離れたはずの奴の匂いが纏わりつく。
不思議と落ち着くその香り。
何でだろう、悪くないな。
「やっぱ、少し分けてくれないか」
「こいずみ」
end
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初古キョン。
因みに、クローゼットのポプリは無難にラベンダー。そりゃ落ち着くだろう