クレしん


□notice
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「かっざまくーん」
「しんのすけ?」

聞き慣れた声に振り替えると、笑顔で駆け寄る幼馴染みの姿があった。

「今帰り?」

幼い頃と変わらない独特の笑顔。

「あぁ、そうだよ。お前は?」
「俺も今帰り〜。一緒に帰ろ」
「いいよ」

断る理由なんてない。

僕は、この幼馴染みが好きだから。

こいつといると、どういう訳か落ち着くから。

利害を気にせず付き合える親友だから。

ま、本人には言わないけど。



「せっかくだからさ、どっか寄ってこーよ」
「ん?あぁ、いいよ」
「ヘッヘ〜。放課後デートだね」
「あぁ、そうだね…って、違うだろ!」

こいつのこの手の冗談も聞き慣れた。

でも、やっぱり心臓に悪い。

それに、あの頃と違ってもう高校生だし、恥ずかしい。





「見て見て〜。じゃーん」

店に入って席に着くなり、彼は携帯電話を取り出した。

「あ、買ったんだ。良かったな」
「い〜でしょ〜。最新だよ」
「登録するから、番号教えろよ」

自分の携帯電話を取り出そうと鞄を開く。

「あ、それなら…」
「ん?」

「あっれ?野原じゃん!」

返事を聞く前に、知らない人が口を挟んできた。

「あ、三宅。どしたの?」
「腹減ったからな。ちょっと。何?友達?」

チラリと目を向けられ、反射的に笑顔で返す。

「まぁね〜今デート中さ」
「ハハッ。そうかそうか」

日頃から聞き慣れているのだろう。『デート』と言われたのにスルーした。



目の前で、僕の知らない人と笑い合う彼を見ていられず、視線を下に向け黙々とアイスコーヒーを啜る。



僕の友達なんだぞ、と言ってやりたい。



どうしていいか、わからない。



「あ、ケータイ買ったんだ。番号教えろよ」
「ん〜ちょっと待っててね」

そう言って、携帯をいじるしんのすけ。



僕が先に聞くはずだったのに。



「あれ、電池無くなっちゃった。買ったばっかでいじりすぎたかなぁ?」



お前のせいで聞けなくなったじゃないか。



ガタン



急に立ち上がった僕を、二人は不思議そうに見ていた。

「ごめん。ちょっと用事。良かったらココ座って下さい」

席を勧め、笑顔でその場を立ち去る。



でも、ちゃんと笑顔になってたかな?



「風間くーん」



しんのすけの声が耳に入ったが、立ち止まる事なく、店を出た。
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