クレしん


□歌
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あれは確か、お別れ会の翌日だった。
僕の勘違いで、皆に迷惑をかけてしまった。
する必要のない飾りつけ。
する必要のないお別れ会。
無駄な時間。

そして・・・。



【歌】



「かっざまくぅ〜ん」
「あ、しんのすけ・・・」

昨日の事が気まずくて、塾のテスト勉強を理由に休み時間を一人で過ごしていた。
遠慮を知らない僕の悪友は、おかまいなしにやってくる。
「何してんの」
「・・・勉強」
「遊ばないの」
「遊ばない」
「・・・」
「・・・」

いつもの口調。いつものやりとり。

この後、邪魔をされてしんのすけのペースに持ち込まれるのがいつものパターン。

でも、しんのすけは静かに僕の横に座っている。

「なんだよ」
「べっつにぃ〜」
みると、しんのすけは気持ちの悪い笑顔を浮かべていた。
「っ、気持ち悪いなぁ」
「細かい事はきにしな〜い」
「あっち行けよ」
「いや〜ん。風間君のそばにいたいんだゾ」

「・・・怒ってないの?」
「え〜なんで〜?嬉しいゾ」

「え?」


怒ってるかと思ってた。

しんのすけは、昨日一人で歌ってくれた。

僕のためだけに。

馬鹿で下品で遠慮知らずでしんのすけが歌ってくれた。

僕の、為に。

だから、それを無駄にしてしまった僕の事を怒ってると思ったんだ。


「風間君が、いてくれるのがうれしいゾ。オラ、朝からお元気がでなかったゾ〜」


「っ・・・」


一瞬見せた寂しそうな顔。。

笑顔の後のその表情が、僕のせいだとわかった。

そして、今の笑顔の理由も・・・。


素直に、うれしいと思った。

心臓がドキドキするのが聞こえそうで、僕は

「今は、うっとうしいくらい元気だけどな」

と、我ながら可愛げのない返事を返す。

本当の気持ちを知られないように。


「あはぁ〜ん。風間君ったらぁ。本当はうれしいくせに」


・・・でも、どうしてこいつには通じないんだろう。


自分のペースが乱される。

しんのすけの前では、隠し事ができなくなる。


それが、なんだか嬉しいのはどうしてだろう。





「・・・風間、どした?ぼーっとして?」
「・・・あ・・・」

隣の友人に声をかけられて、今の状況を思い出す。

今日は、中学校の卒業式。

在校生一同で、あの歌を歌う。

あの時、あいつが歌った歌を、卒業生のために歌う。

でも、隣にあいつはいない。

小学校も別だった。

中学校も別だ。

高校も別になる。

「―何で、今更」

歌いながら、涙が出てきた。

友人はそれを、卒業する先輩に対してのものだと思っているだろう。

ここでは、誰にも本心を悟られない。

でも、それをなんとも思わない。



あの時の、あの感情。



その理由に気づいてしまった。



どうして、嬉しいのか、わかってしまった。



あれは確か、お別れ会の翌日だった。

僕の勘違いで、皆に迷惑をかけてしまった。

する必要のない飾りつけ。

する必要のないお別れ会。

無駄な時間。

そして・・・。




僕にとって、あいつがかけがえのない存在だと、思い知らされた。





―それが理解できる頃には、もう二度とあの頃には戻れない。―








END

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