クレしん


□ラブレター
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外は雨。

君は今、何をしているの?

会いたい。


【ラブレター】

  
「野原ぁ〜次、現国だぜ」
「あ。何だ、もう次の授業なの?」
数学の教科書を出したまま、ぼんやりすごしていた事に気づく。

乱雑な机の中から国語の教科書を探し出し、無造作に机の上に放り出した。
「お前、ボーっとしすぎ。つか、宿題やってきたか?」
「あはは。やってるわけないじゃん。聞く相手間違ってるって」
「だよなぁ。お前、ロッカーに教科書置きっ放しだもんな」

自分のロッカーにちらりと目をやる。我ながら、汚い。


『二人で使ってるんだから、片付けろよな』
『ほーい』


脳裏に浮かぶ過去のやり取り。

記憶の中の、君の声。

それだけなのに、胸が鳴るのがわかる。



「誰かに見せてもらえば?」
「だな。お前は?」
「ん〜、宿題って何だっけ?」
「小論文」
ペラペラと教科書をめくり、その箇所を教えてもらう。
「あぁ、これね。今からちゃちゃっとやっちゃいますか」
「マジ?あぁ、そういえば、得意分野だったな」
「へへ。それほどでもぉ」

悔しそうな友人を尻目に、ノートに書き込んでいく。

チャイムが鳴った。

慌てて席に着く友人にひらひらと手を振り、また外を眺める。



『僕はエリートだから、お前とは違う小学校に行くんだ』



得意げな顔で、彼はそう言った。

でも、まだ遊べると思っていた。
近くに住んでいたから、すぐに会えると思っていた。
6歳の自分にはわからなかった。

違う学校に通うという事が。

「俺も勉強しとけば良かったな」

高校だけでも同じところに行きたかったけど、無理だった。
当たり前だ、レベルが違いすぎる。
彼のほうが、合わせてくれるはずもない。


教師が来て、授業が始まったけど、なんだか気分が乗らなくて外ばかり見てしまう。

思い出してしまった。
あの頃の事を。

懐かしくて、すこし寂しい思い出。

懐かしさが、わからなかったあの頃。

父ちゃんたちは、それが楽しかったみたいだけど、こんなに寂しい事だったなんて。

『懐かしいって、そんなにいいものなのかな?』

よくなかったね。懐かしさなんて知りたくなかった。

外では雨が降り続けている。



風間君。オレね国語だけならとくいなんだよ。
知ってた?知らないでしょ。
一緒に授業受けてないもんね。

この前なんて、10番内に入ったんだよ。国語だけだけど。
だがら、携帯買ってもらっちゃったぁ。今度番号教えに行くね。

あとね、この前告白されたんだよ。
でも、同級生になんて興味ないから断ったけどね。

オレが好きなのは、年上。しってるでしょ?

でも、ほんとは違ったみたい。

だって、ななこお姉さんが結婚したときもなんともなかったから。

憧れは恋に似ているね。

でも、愛情は違うんだ。


いなくなったら困るのが、愛情だよね。


今、オレすごく困ってるんだ。

君がいなくて困ってる。

いるのが当たり前だったから。
知らなかったから、あの頃は。


オレは風間君がいなくなったら困る。
だから、傍にいて欲しい。



好きだよ。



ノートに綴った彼への手紙。

読み返して、笑ってしまった。

これじゃぁ、まるでラブレターだ。


あの頃は、平気だった。


今は、怖くて仕方がない。


本当に君が好きだと知られるのが、怖い。


「渡せないよな」


そのページを切り取って、小さく折りたたむと、ポケットに入れる。


でも、伝えたかったから。



この授業が終わるまでに、雨がやんだら。

俺の願いを聞いてくれて、雨がやんだなら。

もしかしたら、想いが通じるかもしれないな。



微かな希望を空に託す。




チャイムが鳴った。







雨はまだ、やまない。



end



――――
過去のPCサイトにUPしたものより転載。PCサイトは落ちました。

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