ケロロ短編

□ケロロ 仮装祭後夜
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「そんなにしてくれなくてよかったですのに」

と笑う冬樹君をベンチに座らせ、急ぎ自販機でココアを買って渡した俺は、冬樹君から少し離れて座った。

……何も出来なかった俺だ。
気まずくて、すぐ隣には座れなかった。

どんな顔をしていいのかわからない。
何を言っていいかわからない。
それに…何で冬樹君が戻ってきたのかわからなくて、怖い。
情けない俺をなじりにしたんだろうか。
いや、冬樹君はそういうひねくれた事はあまりしない人の筈だ。
けれど他に理由が……
なんて悩んでいたら、冬樹君が口を開いた。

「          」

………え?

耳に届いた筈の言葉が理解できず、俺は顔を上げて冬樹君の方を見る。
すると本当に近くに、冬樹君の顔。

「うわっ!」

もっと離れていると思っていたから、驚いて声を上げてしまった。
しかもバランスを崩してベンチから落ちそうになった所を冬樹君に支えてもらいきれずに二人してベンチから落ちて。

…あぁ、何か今日の俺は本当に情けない。
格好悪すぎて泣きたいくらいだ。
なのに、冬樹君はいまだニコニコしたまま俺を見る。
呆れてないのか…?
というか、さっきは何て言って…

「聞いてなかったんですか…」

あ、呆れた。
…呆れられてホッとするのもおかしな話だ。

「仕方ないだろ、俺だっていろいろ…情けないなって悩むんだから」

「確かに今日の睦実さんは情けなかったですね」

………冬樹君………俺、泣くぞ……?
クスクスと笑う冬樹君は、でも、と言葉を続ける。

「とっさに叫んだ僕の声が届いたのが、何より嬉しかったですから」

そりゃ、助けてくれたら完全無欠で嬉しかったですけど、という冬樹君に、俺は言葉を返せなかった。

…それは、桃華ちゃん達が石にされてしまった時の話。
冬樹君はその持ち前のオカルト知識でアリサちゃんの能力を見抜き、

『この子の目を見ちゃダメだー!!』

って忠告してくれた。
それに反応出来たのは俺だけで、2人は石にされた訳だけど。
俺が反応して無事だった。
たったそれだけのことが、何より嬉しかったって……

「だから『ありがとうございます』って、言いに来たんです」

…あぁ、たったそれだけの言葉があまりに嬉しい。
どうして彼は、俺を救い上げるのがこんなに上手いんだろう。
ごめん冬樹君………俺、泣くよ。
俺の頭を撫でながら、冬樹君は笑って。

「次は助けてくださいね」

勿論。

「でも、無理はしないでください」

うん。

「…今日は本当に情けないですね」

……泣いてるしね。

「そんな睦実さんも、僕は好きですよ」

…ありがとう。

「ところでこの体勢は…」

そこでようやく、ベンチから落ちた時冬樹君を抱きかかえるような体勢になっていた事に気付いた。

「誰も見てないよ」

ってそのまま抱き締める前にするりとかわした冬樹君は、

「ここじゃ寒いから嫌です」

……って……

「明日は学校ですけど、お邪魔します」

明日の朝は僕を起こしてうちまで送ってくれますよね?
と言う冬樹君に、俺は馬鹿みたいにコクコク頷ずく。

寝坊だけは絶対にできないな、と俺は今から気を引き締めた。
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