交易品

□6000Hitフリー達
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妄執は人を狂気へと駆り立てる。
オカルトに妄執を持つ僕だって、時として理性を手放し探求という狂気に走る。
勿論、それは何も悪い事ばかりじゃない。
戦争という狂気は技術を発展させ、後世に多くの物を残した。
けれど。
その狂気の渦中に巻き込まれている方としては、本当に迷惑でしかないんだ。


ケロロ軍曹
〜妄執変質確執狂気〜


その狂気に、僕は今まさに巻き込まれていた。
知らない家の中、拘束された僕の目の前に居るのは、見たこともない男性。
薄暗い室内を見渡せば、いつ撮られたかわからない僕の写真、なくなった筈の僕の服、本、しおり、オモチャ……
そういった物が所狭しと、しかし綺麗に並べられていて、僕は現実味を帯びた恐怖にゾワリと背筋を粟立てる。

「どうだい?気に入ってくれた…かな?」

男に尋ねられたけど、僕は首を縦にも横にも振れなかった。
道端で無理矢理車に押し込んでまで連れて来た上に、この部屋の様子。
変にリアクションをとったら何をされるかわからない。
だって相手は、ストーカーなのだから。
僕への妄執により狂気に走った相手なのだから。
けれど。

「気に入ってくれた…よね」

そう言う男が手にした写真を見て、僕は息を飲んだ。
だってそこに写っていたのは、

「睦実さん…!」

睦実さんのうちで一緒に過ごす、僕と睦実さん…
決して今は明かしたくない、事実の断片だったんだから。

「気に入ったよね?ボクにホレちゃうよね?」

その、脅迫に。
僕はコクコクと頷かざるを得なかった。



好きあってるならいいよね、なんて言いながら、男は僕を写真で埋まったベッドに押し倒す。
抵抗したいし、嫌で嫌で仕方がない。
だけど、あの写真を見せられている僕には抵抗出来なかった。
あの写真の物語る事実、これがバレてしまうのは、僕個人ならば構わない。
だけど、睦実さんは。
ちょっと無理してでも芸能界でイメージを作っている睦実さんが同性の、しかも中学生と付き合っているなんてバレたら…
そう考えるから、僕は抵抗出来ない。
僕が我慢すれば睦実さんには迷惑がかからないんだと言い聞かせて、僕は男の口付けを受け入れた。
きもちわるい。
いくら我慢しても、それは表情に出てしまう。

「どうしたの冬くん、ボクらは愛し合ってるのに難しい顔しちゃって」

それを白々しく指摘しながら、そうか愛が足りないんだねなんて言いながら、男は僕を抱き寄せて、べろんべろんと首筋を舐める。
きもちわるい。
寒気がする。
そうして体をよじった僕の、そんな態度が気に入らなかったらしい。

「…何だよその態度。冬くんはボクを愛してるんだ!そうに決まってる!なのにボクを拒んで!嫌がって!」

叫びながら僕の服を破っていく男が怖くて、僕は何も出来なくて。
その内何かに気付いたらしい男は、肩で息をしながらそうかと顔を上げた。

「あの男が悪いんだね?623とかいうあの男が、ボクの愛を伝えさせないんだ」

だったらあの男を忘れさせてあげるよ。
言いながら、男は裸同然になった僕をひょいと抱き上げる。
座らされた先は、男の腰の上。
…僕の事を気遣って、睦実さんとこういう事は数回しかやった事はないけれど、それでも男のやろうとしている事はわかる。
嫌だ、けど、それでも僕が我慢すれば、睦実さんに迷惑はかからない。
お尻の下で男がジッパーを下ろす音がして、痛い事も嫌な事も全部我慢しようと決意を固めて。

「いくよ、冬くん」

言われた僕は目を固くつむって、来るであろう衝撃に備えた。


「ひとりで勝手に何処へでも行けよ」


覚悟した衝撃は来なかった。
代わりに来たのは誰かの声と、男のうめき声と、とてつもなく痛そうな鈍い音。
後は、誰かに優しく抱き上げられる感覚だけ。
こんな風に抱き上げてくれる人を、僕はひとりしか知らない。
目を開ければ、まずうつ向き具合いの視線は男のみぞおちに沈んだ足を映した。
…痛そうだなぁ…
なんて考えられるのは、さっきまでの極限状態から脱出できたからだろう。
そして僕は、体を捻って抱きしめてくれている人を見る。

「…無事で、良かった…」

クルルに聞いて駆け付けたんだ、と情けない笑顔を浮かべるその人は、間違いなく僕の最愛の人。

「ご心配をかけました、睦実さん」

抱き返せば、彼は僕に唇を落とした。



詳しく事情を話したら、

「俺の芸能生命なんかどうでもいい!」

という睦実さんと

「我慢してれば済むことで崩れるのは馬鹿馬鹿しいですよ!」

という僕とで喧嘩になったのだけど、

「はいはい痴話喧嘩自重しな」

と冷めたクルルに止められて恥ずかしい思いをしたのは別の話。

芸能生活より僕を取ってくれるのは嬉しかったけれど。
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