交易品
□6000Hitフリー達
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起こすのも大変なんだからな。
僕らの旅行記
〜起きろ馬鹿者〜
誰しもご存知の事と思うが、僕と共に旅をしている田舎者ことスタンという男は極めて寝起きが悪い。
2年前より幾らかマシにはなったが、それでも起こすのは重労働な上、起こす人間が僕しかいない現状むしろ前より負担は増している気がする。
…それでも一緒に旅をしたいのだから、どれだけスタンが好きやら呆れる所だ。
「いい加減に起きろ!」
とはいえ苦である事には変わりなく、僕はイライラをぶつけるような形でスタンに叫び声をぶつけた。
まぁ、この程度で起きるなら普段から苦労はしない。
「すー…」
案の定、スタンは寝息すら乱さず熟睡したまま。
全く、僕は早めに起きてもう着替途中だというのにいい気な物だ。
このまま寝坊させて困らせたい衝動にかられるが、それは一緒に旅する僕も出発が遅れて困るし、何より宿が用意する朝食が食べられず勿体無い。
それに、その…
かまってもらえないのが寂しいというのもなくは…
すっ、少しだけだからな!
オマケのような物だ!
自分で自分の思考に真っ赤になって言い訳しながらも、僕はスタンを起こす方法を考えていて。
起こすだけならば全力でフライパンを打ち鳴らしてやればいいんだが、やかましすぎて近隣住民からクレームがつく。
ならば物理的な手で起こす事にしよう。
よし、と意気込んだ僕は、まず頭半分まで埋まっている掛け布団を力づくでひっぺがすと、
「起きろ馬鹿者!」
仰向けで眠るスタンの腹のあたりにヒップドロップを敢行した。
「ぐっ……っ!」
ずむ、といった鈍い音と同時にスタンはうめき、ベッドの上で身をよじる。
完全にはよじりきれないのは僕が上に乗っているのが邪魔だからだ。
ははは、苦しいなら早く起きるがいい(つまりはまだ目をさましていない)。
「何か痛苦しっ…」
やがて目を覚ましたらしいスタンは、何が起きたかわからない、といった様子で半身起こそうともがく。
まだ僕が腹に乗っているからちゃんとは起こせまいが。
やがて重みの原因を確認しようと思ったんだろう。
僕の方に顔だけ向けたスタンは、涙目を真ん丸にして固まった。
みるみる頬を赤く染め…って、何だこの反応は。
「起きたか」
聞けば、スタンは首を縦に降る。
「…起きたけどお前、その体勢は…」
体勢?
言われて、改めて自分の体勢をかんがみる。
スタンにヒップドロップを敢行した体勢のままでいた訳で、つまり今の僕はスタンの腹の上で股を開いている事になる。
しかも着替途中だったから、服装は上にシャツ、下はタイツとも形容される白いぴっちりしたインナーだけ、で……
かあぁぁぁっ、と顔が熱くなるのがわかった。
そういう意図ではなかったにしても僕はなんて事をっ!
「誘ってる?」
断じて無い!
そう誤解を受けても仕方がない体勢なのは認めるが、僕は速攻で否定する。
……まぁ、口頭では
「ちがっ…!」
なんて弱々しい否定になってしまったが。
そんな取り乱した僕を見てニヤニヤしていたスタンだったが、
「リオン、かわいー」
と言ったかと思うと、手を伸ばして僕の体を抱き寄せた。
横になったままのスタンの上に寝かされるような状態になった訳だが…
間近にある幸せそうなスタンの顔が恥ずかしくてたまらん。
「おまっ…放せ馬鹿者!」
必死に抵抗しても力でスタンに勝てる訳もなく、僕としても正直に言えばこの状況が嫌な訳でもなく。
ただ恥ずかしさから抵抗する僕が、
「大好きだぞ、リオン…」
なんて幸せそうなスタンに言われて優しくキスまでされたんだ。
ますます顔を熱くした僕は抵抗なんか出来ず、ただ一言。
「こんな事…今日だけだからな」
そうやって、素直じゃない言葉を言うだけで限界だった。
部屋から出たのは結局昼過ぎになった事を補足しておく。