交易品

□6000Hitフリー達
7ページ/11ページ



俺が君で君が俺、よくある展開だ。


ケロロ軍曹
〜冬実?睦樹?身体入換〜


朝目が覚めると、目の前に俺の顔があった。
よし、夢だ。
現実逃避気味にそう決めつけて、俺は目を閉じ…
る前に、ガラスに写る自分の姿を見て硬直した。
くりくりした瞳、頭から伸びるアンテナ髪、そして吉祥の制服。

「え、何で…!?」

思わず口にした声からしても、間違いない。
俺…睦実は、何故か冬樹君になっていた!
つーか何で床で寝てるんだ?
いやそれより、俺が冬樹君って事は隣で寝ている俺は冬樹君なのか?

「冬樹君、起きてよ」

つついてみれば、

「何ですか睦実さん…」

だなんて、まるでねぼけた冬樹君みたいな動作で身を起こす俺の体の中身は、どうやら冬樹君で当たりらしい。
…間違いない、夢だな。
決めつけて思考を放置した俺は、

「…え、ちょっ…!?どうなってるんですか睦実さーんっ!」

情けない睦実声を耳にしつつ、無理矢理目を閉じた。



ところが悲しいかな、こういう不条理が夢落ちにならないのが俺達を取り巻く環境である。

「原因はこいつのようだな」

在庫整理のためにとうちに預けてあった発明品をとりにきたクルルが指定したのは、一見普通のガチャガチャだ。
クルルの説明によると、ガチャガチャをやった人間を人形にし、その人形の鼻を押すと中身が入れ替わる、という仕組みのメカだそうだ。
確かに俺はガチャガチャをした覚えがあるし、冬樹君も俺の人形の鼻を押したっていうから、多分間違いないだろう。

「…父の日に姉ちゃんに使ったヤツ?」

覚えがあるらしい冬樹君の質問に、クルルは面倒くさそうに頷いて。
そんな厄介な物をウチに置くなと思わないではなかったけれど、事前に面倒な事になるから触るなと釘を刺されていた関係上文句は言えない。
それは後で反省するとして、

「元に戻る方法もあるんだろう?」

いくらクルルと言えど、試作品ではないんだから方法を用意してる筈だ。
案の定クルルは頷いて、

「今すぐは無理だがな」

って!
それ一体どういう事だ!

「戻るには入れ替わった時みてーに、一度人形になりゃいいんだがな」

言いながらクルルが向けた視線の先、ガチャガチャの中身を見てみれば…

「空っぽになってる!」

冬樹君の言った通り、品切状態になっていた。
…でも、すぐ作れるんだよな?

「もう使わねーだろうと思ってたからな、中身の人形の設計図ごと抹消しちまったから明日まではかかるぜェ?」

「げっ…」

それはまずい。
何せ今日は夕方からラジオ番組の収録だ。
見た目もだし、何より声が全然違うから今の俺がパーソナリティを勤める訳にはいかない。
だからって番組を休む訳には行かず、あぁどうした物だろう。
頭を抱えてうつ向いた俺の肩を叩かれて、俺は顔を上げる。

「大丈夫ですよ、僕が何とかしますから」

そう言う冬樹君の、というか俺の真面目顔は、こういう時に異常な説得力を持つんだなぁなんて思いながら、俺は情けなく泣きそうな顔を縦に振った。




それで冬樹君がどうしたかと言えば、

『623の俺ラジオ、今日はちょっと趣向を変えてオカルト物の特集をしてみるよー』

賢くも、番組内容を自分寄りに引きずり込んだんだ。
普段から俺の番組は唐突でマニアックだから、唐突にオカルトのマニアックな話を持ち出しても何らおかしくないからね。
ポエムだ何だは事前に用意しとけばいいし、タイムスケジュールは構成作家がやってくれる。

…内容は案外何とかなる物なんだな。

それでも喋るのは俺ではなく冬樹君な訳で、その話を聞いた時は喋りでボロが出ないか不安だったし、当然俺はついていくつもりだったんだけど、

『一緒に行ったら変な噂たてられちゃいますから…今は僕を、信じてください』

そうやって言われたら、信じない訳にはいかないじゃないか。

結果としてそんな心配は杞憂で、思ったよりも舌滑のいい冬樹君のトークは実に俺らしく、それでもどこか冬樹君らしく、俺が聞いても安心して楽しめる物だった。
…それってつまり、俺っぽさを出せる位に冬樹君は俺の事を見ていてくれてたんだって事、だよな。

『それじゃあ今日のラストナンバー、"勝手に侵略者"を聞きながらお別れだ!』

番組終わりの提供を読み上げる声を聞きながら、後40分足らずで帰ってくる冬樹君の為に夕飯を作って待っていよう、なんて。
まるでいつもの冬樹君みたいだなぁと苦笑いながらも悪い気はせず、俺は食材を買い出す為に財布をひっつかんだ。


元に戻った後、これだけ話せるのに奥手な冬樹君を番組のゲストに迎える方便を考えながら。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ