交易品

□6000Hitフリー達
6ページ/11ページ



弱い所とか隠し事とか、サブロー先輩が全部話してくれたのは、今からちょっと前の話。
やっと僕を信頼してくれたんだと思ったけれど、それにしたっていきなりすぎる。
何があったか尋ねてみれば、サブロー先輩は至って真剣に言ったんだ。

『よその世界の冬樹君に怒られてね』

それを聞いた時は何のことやらわからなかったけれど、クルルの作った電話BOXから出た今ならわかる。

「サブロー、また来たのか」

「今度はそっちの世界の僕も来たんだね」

平行世界は実在していたんだ!


ケロロ軍曹
〜突撃!隣ノ平行世界 であります!〜


「今日は姉ちゃんは東谷さんと買い物で夜まで帰って来ないから、ゆっくりしていってください」

自分ちと殆ど同じ居間で、自分と殆ど同じ顔にお茶を出された僕は、何だか複雑な心境でお茶を受け取った。
ううん、湯飲みもうちと変わらないのに、目の前にある自分の顔がここが異世界だって痛い程に主張しているのが逆に変な感じだなぁ。
それはどうもこっちの世界の僕も同じみたいで、

「何か変な感じだね」

そう言う表情は苦笑いだ。
けれど、以前も顔を会わせて慣れているのか、サブロー先輩とこっちの世界のサブロー先輩、睦実さんはとてもにこやかにしている。
…まぁ、僕達と違って年齢とか違うから、それもあるのかなぁ。
ボソリと呟いてみると、こっちの僕は呆れ混じりに首を横に振った。

「どうせ『冬樹君が二人だなんて幸せだなぁ』ってだらしなくニヤニヤしてるだけだよ」

途端、サブロー先輩はギクリと肩を振るわせた。
…あ、当たりなのか…
それを裏付けるかの如く、

「流石は俺の冬樹君、俺の事よくわかってるなぁ」

よりニヤニヤを増した睦実さんは、こっちの世界の僕をぎゅっと抱き締める。
この顔の人がこうまでみっともないのは僕にとっては驚きだけど、それ以上に

「はいはいみっともないからやめてくださいねー」

なんてこ慣れた対応をするこっちの僕に、まだ抱き締められると何も出来なくなる僕は驚きを隠せなくて。
それでも無理にはふりほどかないあたり実に僕だなぁなんて思いながら、僕はお茶を少しすすった。
…あ、僕が煎れるより美味しい。
うーん、何だかついさっきまでは同じ僕だと思ってたのに、結構違う物なんだなぁ。
しかもこっちの僕の方が、どうやら精神的に大人だ。
………よし。

「あの、相談があるんですけど…」

意を決して切り出すと、こっちの僕はきょとんとした顔をこっちに向けた。




サブロー先輩達にはちょっと席を外してもらって。

「それで、どうしたの?」

こっちの僕に尋ねられた僕は、ふぅと小さく息を吐いて、聞く。

「どうしてあんな風に適当にあしらえるんですか?」

「適当って…」

心外だとでも言いたげな視線を向けられたけれど、僕からすればさっきのあしらい方はどうしたって適当にしか見えなかった。
そんな事をしたら嫌われないかと怖いから、僕はとてもじゃないけどあんな風には接せられない。
けれど、こっちの僕はそうやって接しているし、睦実さんも嫌な顔ひとつしなかった。
それどころか僕らよりもお互いの距離が近いなぁとさえ思えて、羨ましかった位で。
そうまで話した所で、こっちの僕は少し唸った後、ねえ、と疑問を口にする。

「君は、サブローさんの事をどう思ってるの?」

…?

「弱いところもあって危なっかしいけど、格好のいい頼れる人、って」

正直に言えば、こっちの僕は吹き出した。
いきなりの暴挙に僕は眉間に皺を寄せたけど、こっちの僕はあんまり印象違うからおかしくて、と言い訳して。

「僕も睦実さんは格好いいし頼れるとは思うけど、それ以上に弱くて情けなくて我儘って思ってるからさ」

「えぇ!?」

確かにちょっと我儘そうかなぁとは思ったけど、むしろサブロー先輩よりしっかりしてそうだったのに…
そんなに性格違うのか、と納得しかかったけど、そうじゃないよとこっちの僕は首を横に振る。
こっちの僕は我慢する位なら泣き言を言って欲しいと思っているし、睦実さんもそれがわかるから印象が変わる位弱音を吐く。
逆に睦実さんも、こっちの僕の事をサブロー先輩よりもわかっている。
だから遠慮はあるけど、結構我慢しないで言いたい事を言ってるんだ。
やっぱり、僕らより距離が近いや。
…何か、ホントに羨ましい。

「どうすればそんなに近くなれます?」

「気付けば勝手にそうなるよ、君は君のペースでいればいいさ」

それがいいか悪いかははかりかねるけど、と苦笑うこっちの僕につられて、僕も思わず苦笑った。



ちなみに。

「…さて」

その後おもむろに立ち上がったこっちの僕がドアを開けると、聞き耳を立てていたらしいサブロー先輩達が倒れ込んで来た。

…確かに、情けないかもしれない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ