交易品

□6000Hitフリー達
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夏美達はアテもなく艦内を探し回っていた。
冬樹のみならず、623までいなくなってしまった上、相手の目的もわからない。
となれば、ノンビリなんかしてはいられない。
手分けして至るところを探し回り、顔を合わせては報告しあう。
しかし、あまりはかどってはいなかった。
原因は、この艦の材質にある。
この艦の床や壁、扉に至るまで、衝撃や熱を完全に吸収してしまう。
殴ろうともバズーカを撃ち込もうともビームを使おうとも壊してしまう事が出来ないのだ。
ドロロや小雪の使う刀による斬撃ならば破壊出来るのだが、その2人しか扱えない以上捜索効率はガクンと落ちる。
それでも広さは無限ではない以上、いつかは正解の部屋にたどり着く訳で。
斬られ、開いた扉の向こうに見えた冬樹の姿に、

「冬樹っ!」

夏美は叫びながら部屋へと入る。
そこには、落ちていった筈の623と…
モニタに映った、謎の存在があった。



夏美達が来る、少し前。
623が落ちた先は、真っ暗な空間だった。
…いや、よくよく見れば光源はあるようなので、目が慣れていないだけなんだろう。
落下時間的に2階建ぐらいの距離落ちた筈で、体を床に打った筈なのだが痛みは一切ない。
床が衝撃を完全に吸収したのだろうか。
だとすれば宇宙の超技術とやらなのだろうとどうでもいい事を考えながら、623はよいせと身を起こす。
と。

「……睦実さん?」

闇の向こうからした聞き慣れた声を聞き、623はそちらに向き直る。
目が慣れていないから、姿は見えない。
けれど、

「冬樹君?」

「睦実さんっ!」

声をかければ、そっちの方から声が帰ってきた。
同時に何かが動く気配と、ややあってぎゅっと抱きつかれた感触。
少しだけ闇に慣れた623が視界に捉えたその泣き顔は、確かに冬樹の物で。

「来てくれるって、信じてました…!」

言いながら必死にしがみついてくる冬樹を、623は優しく抱き返す。
普段人一倍冷静な冬樹が、こうも自分にすがって来るのだ。
どれだけ怖くて不安だったのか、想像に難くない。

「大丈夫だよ」

言いながら623が背中を撫でる内、冬樹は少し落ち着いたようで、もう大丈夫ですとまだ少し鼻にかかった声を出しながらも少しだけ身を離した。
その動きを目で追う623は、どうやら大分夜目がきくようになったらしい。
うっすら見える冬樹の姿に違和感を感じ、首を傾げる。
偽物だとか、そういった話ではないのだ。
ただ、

「何か、服が…?」

「え、あ!」

見ないでください、と身をよじったのも虚しく。

『ようこそ、姫の想い人よ』

虚空に現れた映像に、冬樹の姿は照らされる。


薄い桃色のシンプルなドレスに身を包んでいる冬樹は、だから見ないでと顔を赤らめた。


「…綺麗だ」


思わず正直な感想をもらした623は、しかし頭をブンブン横に降る。
確かに(嬉しくないだろうとはいえ)ドレスは冬樹によく似合っていた。
しかし、今は事態が事態だ。
相手の目的もわからない以上、みとれている場合じゃあない。

「冬樹君をさらってこんな格好にして、どういうつもりだい?」

恥ずかしがる冬樹を無理矢理抱きとめて、623はモニタの向こうにいる者…見た目は殆ど地球人と変わらない…に、ふてぶてしく笑って尋ねる。
姫とか言っていたから、ひょっとしたら以前夏美がそうだったように自分達の姫にさせようとしているのかも知れないな、という623の予想は、しかし斜め上に裏切られた。

『フユキ…その方は、ポコペンの姫なのです』

「は?」

意味がわからない、と623は眉を潜めたが、どうやら向こうは本気らしい。

『彼はポコペンから分化した存在であり、"姫"という使命を持ちし者。故に全知的生命存在惑星会合、ポコペン代表にふさわしいと招待するつもりだったのですが…ケロンの者達の警戒が強く、結果誘拐のような手段をとってしまいました』

申し訳ないと謝罪され、623はすっかり毒気を抜かれてしまった。
冬樹が本当に姫かどうかはさて置き、それならばこの扱いや服装にも納得が行く。
危害を加えるつもりもないのだろう。
けれど、ひとつわからない事があった。

「何で退星しなかったんだ」

連れていくならすぐに退星すれば良かったのに、彼等は待った。
状況を見れば623を待っていたと考えられなくもないが、それにしても理由がわからない。

「それは…」

「冬樹っ!」

部屋のドアを壊した夏美達が部屋へとなだれ込んだのは、この瞬間だった。


事情を知らず殺気だってモニタを睨む夏美達。
そんな殺気は無視したアヴィル星人は、623への答えを続ける。

「退星しなかったのは、623…姫の想い人である貴方を、向かえ入れる為です」


「…はい?」



瞬間、空気が凍った。


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