交易品

□生態調査被検体H
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貴方になら、されてもいい。


ケロロ軍曹
 〜生態調査被検体H〜


皆さんは、『キャトル・ミューティレーション』と呼ばれる事象をご存知だろうか。
1960年代から、北アメリカを中心に起きていた牛の変死事件で、メスで切り取られたような死体には血が一滴も残っておらず、死体を放置しておくと崩れ去る。
何より特筆すべきは、その牛の側に何者かが接近したような跡はなく、どうやって殺したのかわからない事。

そのことから宇宙人の仕業ではないかと言われていた。
UFOに吸い込まれて行く物体(主に牛)のイメージがつくられたのも、そのせいだと思われる。
ある者は解剖実験のためだと言い、またある者は血を全て飲み腹を満たしたんだと言ったけれど、真実はわからない。
そもそも本当に宇宙人の仕業だったのかもわからないけれど……

実際にさらわれて何やら台に拘束されてる僕としては、せめてまだ生き残れる可能性のある解剖のほうがってそういう問題じゃない!

どうやってさらわれたのかはわからないけれど、僕は気付いたら台以外は円形の壁と床天井以外何もない空間に居た。
その直前の記憶が図書館で本を読んでた事だから、多分そこで気を失わされたんだと思う。

…これだけならば地球人の仕業だってことも十分考えられるんだけど、問題はこの拘束だ。
拘束とは言っても目では見えないし、台の上でなら普通に動ける。
ただ、台から降りようとすると手足が何かの力に引きずられるみたいに、勝手に台の中心に戻されてしまうんだ。
見えない枷を手足につけられて、鎖を引かれるみたいな感覚に近い。
ただ、普段は重さどころか拘束されてる感覚すらないんだ。
こんな技術は、地球にはない。

…となると宇宙人の仕業だって素直に飲み込めるのは、僕が軍曹達で慣れすぎたからなんだろうな…

『…目を覚ましたようだな』

っ?
急にこの部屋に響いた声に、僕は辺りを見回した。
…誰も居ない。
こんな拘束が出来る連中だ、姿だって容易に消せるだろうけど(そういえば軍曹達にだってアンチ・バリアがあるんだよな)、

『無駄だ、我々はその部屋には居ない』

という音声が流れてきたので、素直に見回すのをやめた。
向こうの方が優位なこの状況で、嘘をつく意味がない。

「何者だ、僕をどうするつもりだ!」

意味もなく上を見上げて、叫ぶ。
答えてもらえるなんて思ってないけど。
…でも、予想外な事に。

『我々はポコペンの侵略に関しては後進星なのでな、生態の調査をさせてもらう』

なんて、素直に話しだした。
成程、キャトルというよりはアブダクションに近い訳か。
でも……

「何で僕を?」

『敵性宇宙人であるケロンの捕虜の調査は興味深いのだよ』

…また軍曹か。
でも、そういう事なら協力する故はない。

『君に拒否権はない』

まるで僕の思考を読んだみたいなタイミングで降ってきた言葉に、動きが一瞬固まって。

「っ!?」

急に動かなくなった手足に対応できず、僕はその場に倒れてしまった。



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