ケロロ短編
□ケロロ 我望、模型組立
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好きだから、知りたいと思うんだ。
ケロロ軍曹
〜我望、模型組立〜
偶然睦実さんと出会ったのは、駅前にある湯沢屋って大きな店の7階、プラモデルコーナーだった。
今日この店はセールをしていて、ガンプラなんかもすごく安くなってるからね。
よくガンプラを作る睦実さんがここに来るのは、考えてみれば当然だ。
ちなみにガンプラに興味がない僕がこんな場所に居るのは…
「ケロロに何か頼まれたのかい?」
「はい、あの、マスターグレードのフリーダムを…」
軍曹に言われたメモを見ながら答えた僕の空いてる手を、睦実さんは柔らかく握る。
「場所とかどれかとかわかんないだろ?案内してあげるよ」
丁度俺も同じの買うしね、と言って歩き出した睦実さんのエスコートがあんまり自然で、僕も自然についていってたんだけど…
別に手を繋ぐ必要ないって事に気付いたとたん、かあぁっと顔が熱くなった。
こういう事は友達同士でもやらなくはないけど僕達は恋人同士な訳で、側から見てそうは見えないにしても意識してしまって恥ずかしい。
「む、睦実さん…」
離してください、と小さな声で抗議すると、睦実さんは振り向く。
「まぁまぁ、今日は人が多くてはぐれそうだし」
そうやって、セールだからとやって来た沢山の人のせいにする睦実さんの表情は、あんまりにも幸せそうに緩んでいて。
手を繋いでる事よりその笑顔が恥ずかしくなった僕は、顔だけでなく耳まで熱くしてうつ向いてしまった。
「可愛いなぁ、冬樹君」
な、何言ってるんですか!
「入るよ軍曹ー」
買ったフリーダムを携えて軍曹の部屋に入ってみれば、
「お待ちしておりました、であります」
なんて、まるで旅館の女将がするみたいに深々と頭を下げた軍曹に出迎えられた。
いくらガンプラ好きだからって、そこまでしなくても…
苦笑いながらガンプラを渡せば、
「まふーっ!」
変な声を上げてはしゃぎながら、箱から取り出した説明書を読み始める。
そんな軍曹の後ろから、開いたままの箱を覗き込んでみた僕は思わずうめいてしまった。
だって、フレームみたいなの(ランナーっていうらしい)にくっついたパーツの量が尋常じゃないんだ。
全部で百くらいはあるんじゃないかな。
こんな沢山ある細かい物を説明書片手に組み上げていくなんて、好きでも根気がなきゃとても出来ない気がする。
僕みたいに興味がない人にとってみれば拷問にすら思えて、何が面白いのか全くわからない。
…まぁ何が面白いのかわからないという意味では僕の趣味であるオカルト考証だって余程だとは思うんだけど、それにしたってさぁ…
「ねぇ、何が楽しいの?」
我ながら失礼な質問だとは思うけど、ニッパーでパーツを切りはじめた軍曹に聞いてみれば、特に気を悪くするでもなく軍曹は口を開いた。
「人それぞれでありますが、我輩は完成した姿を思い描いて、それを実際に組み上げ形に出来た時の達成感が楽しみなんでありますよ」
へえぇ、わかる気はするなぁ。
確かにこれだけの物を作り上げたら、やりきったって満足しそうだもん。
でもそれは想像できるってだけで、実際に味わってないから何とも言えないけど…
ちょっとだけ、僕もその達成感を味わってみたくなった。
だって、軍曹と同じくフリーダムを買った睦実さんもガンプラが好きで、普段作る姿も軍曹と同じくらい楽しそうだから。
趣味を共有したいって訳じゃあないけど、睦実さんの…
好きな人の趣味を理解したいとは、僕だって思うから…ね。
僕は壁にある幽霊ちゃんのシミの辺りに積み上げられた、軍曹の作ってないガンプラの山から小さい箱をひとつ抜き出すと、
「軍曹、ひとつ貰っていい?」
なんて、ダメ元で聞いてみた。
そんな事を僕が言うとは思わなかったらしい軍曹は、元々丸い目をより丸くして僕の方をまじまじと見ていたけれど、構わんでありますよ、って言ってくれて。
「いつも買ってきて貰ってるでありますからな、冬樹殿になら特別に許可するであります」
「ありがとう、軍曹!」
そう軍曹にお礼を言いながらも睦実さんの事を考えるなんて何と失礼なヤツだ、とか自分で思ったけれど。
これでもう少し睦実さんの事がわかるだろうか、なんて僕がドキドキするのも仕方ない事だと思うんだ。
結局上手く作れず睦実さんを頼った結果、そもそもガンプラに手を出した経緯を根掘り葉掘り聞かれて恥ずかしい思いをした事を補足しておく。
「本当に可愛いなぁ、冬樹君は!」
ううう……