ケロロ短編

□ケロロ 仮装祭後夜
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たったそれだけ。


ケロロ軍曹〜仮装祭後夜〜


野外で行われた西澤家主催のハロウィンパーティは大分前に幕を閉じ、あれだけ賑わっていた広場からはカボチャのランタンも仮装した人達も姿を消した。
残ったのは元からあった街灯と闇と、俺一人。

…大半の人にとっては何事もないように過ぎたこの時間。
けれど、その中にも確かに人それぞれに思うところがあって…
何事もないようには過ごせなかった俺も、それは同じだ。


アリサちゃんという不思議な女の子に冬樹君が拐われたのは、ハロウィンパーティが丁度一番盛り上がっていた時だった。
俺は現場に居合せた訳じゃなくて、同じく捕まったクルルからの誘導メールと忍者娘の後を追ったら結果たどり着けた、というだけの事だ。
捕まった冬樹君を見て、それまで

『何か面白そうだ』

と思っていた自分に腹は立ったけど、そんな事より助けなければならない。

でも、小雪ちゃんの攻撃も、パワードスーツを纏った桃華ちゃんの砲撃も、アリサちゃんには通用しなかった。
それはつまり、俺の紙飛行機くらいではどうしようもないって事。

…結局、俺は冬樹君を助けられなかった。
いや……あきらめてしまった。

出来た事と言えば、石にされた2人を運んで、夏美ちゃん達にこの事を伝えただけ。
クルルから受けた誘導メールで、現在位置を伝えただけ。
助けられなかったどころか、何も出来なかったに等しいし、何もしなかったに等しい。

悔やむのは、自分の弱さ。
嘆くのは、自分の力の無さ。
あの時、大切な人が捕まっていたのに、無駄とわかって退いてしまった。
桃華ちゃんだって、あれだけ頑張ったのに。
自分でも情けなくてイライラする。

…こんな今の俺じゃあ、冬樹君に顔向けできない。
だから、皆が帰る時も俺はここに残った。
声をかけてくれた冬樹君には悪いと思ったけど…
情けない自分が、許せなかったんだ。

「はぁ…」

公園を照らす街灯の灯りを見上げ、息を吐く。
まだ自分に整理がついた訳じゃないけど、ここでこうしていたって何にもならない。

「…帰るかな」

自分に聞かせるように呟くと、それでようやく動かなかった足が1歩前に踏み出せた。
同時に思考も少しだけ前を向く。
そうだ、帰ったらクルルにペンを強くするよう頼んでみようか。
せめて、影からでも冬樹君を守れるくらいには。
それが叶うまで、冬樹君には会えないな。
…と、思ったのに。


「睦実さん」


ひとつ向こうの街灯の下から聞こえた呼び声に、俺は止まって振り返る。

「冬樹君……?」

大分前に帰ってしまった筈の冬樹君が、そこに立って笑っていた。



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