ケロロ短編
□ケロロ 緊急事用撤退訓練
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逃げちゃいけない事だってある。
ケロロ軍曹〜緊急時用撤退訓練〜
只でさえすぐ側までしか見えない暗い通路に、今は煙が充満していた。
見えないし、煙たいし、早く出たいけれど、だからって体勢を高くしたら煙にまかれてしまうだろう。
そんな環境の中、僕と西澤さんは這うように出口を目指す。
「冬樹くんっ…」
不安そうな西澤さんを励ましながら、手探りで進みながら。
…どのくらいそうしていただろう。
「西澤さん、明かりだ!」
やっと見えた外の明かりに、僕は思わず叫んで。
それで、僕の気も緩んだんだろう。
そのせいか、思わず立ち上がろうとした西澤さんを止めるのが遅れてしまった。
「……!駄目だ、西澤さん!」
「?」
直後。
ピーッ!という警告音が、西澤さんのICカードから鳴り響いた。
「はい、あなたは2点。最後まで油断しないでねー」
係員さんにスコアシートを受け取った西澤さんは、ガックリと肩を落とす。
その様子を、8点だった僕は苦笑って見守ることしか出来なかった。
点?何それ?と思うだろうから説明しておくけど、今日僕らの学年は社会科見学で『武蔵防災館』っていう場所に来ている。
防災館っていうのは、様々な災害を擬似的に体験できる施設が沢山ある施設。
つまり、大掛りな避難訓練ができる場所なんだ、って簡単にまとめても間違いではないと思う。
最大の特長は避難内容によってICカードに点数が記録されて、全部回ると総合点を見ることが出来るって事だね。
ちなみに10点満点だ。
あくまでアトラクションの点数、みたいな物だけどね。
西澤さんもただのアトラクションの点数でうなだれなくても、と思うかもしれないけど、これにも事情があって。
今日は事前学習もしてる社会科見学だから、4点以下だとこの後防災講習を受けなきゃいけない事になってる。
つまりは居残りで、誰だって居残りは避けたいじゃない?
西澤さんがガックリくるのも仕方ないと思うんだ。
…それにしても落ち込み方が異常な気がするけど…
「残念だったね、西澤さん」
見かねて声をかけたら、西澤さんは泣きそうな顔をしていた。
そこまで居残り嫌なの…?
何にしたって、こんな泣きそうな友達を放っておけるほど僕は冷たくない。
「終わるまでその辺で待ってるから、一緒に帰ろうか?」
「いえ、そんな迷惑をおかけする訳には…」
口では断ってるけど顔は嬉しそうだよ、西澤さん。
「待ってるからね」
と講習室に向かう西澤さんを見送ってから、僕は携帯を取り出した。
アドレス張のシークレットを解除すると一番上に表示されるのは睦実さんで、僕は通話ボタンを押す。
実はこの後睦実さんちに行くことになってたんだけど…
西澤さんを待たなきゃだから、勝手だけど断りの電話を入れなきゃ。
『冬樹君?どうしたの』
電話の向こうの睦実さんに悪いな、と思いつつも事情を説明したら、
『じゃあ、俺も行くから』
おとなしく待ってるんだよ、なんて言って一方的に切られてしまった。
何を心配してるんだろう…?
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