つばさをもつものたち
□あめふりのひ
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急に止まれても困るぞ。
つばさをもつものたち
〜あめふりのひ〜
急に降り出した雨から逃げるように駆け込んだ喫茶店は、同じように逃げ込んだ人達でごったがえしていた。
時間が時間なんで、学校帰りの奴らや夕飯の買い出し中の人らが多い。
道行く人々もみんな傘を持たず、慌てて走っている。
…みんな揃って間抜けって訳じゃないぞ。
絵的には大分面白いが。
予報では雨が降るなんて言ってなかったし今さっきまで晴れてたからな。
つまりいわゆる急な夕立で、そんな日に傘持ってる人のがまれだ。
ご丁寧に雷まで鳴っているから飛ぶのも危ないし。
喫茶店に逃げ込んだ人達は少し待ってれば止むだろうと思ってるみたいだが、とりあえず今の所は止むような気配はない。
困ったな。
俺ことジェネは夕飯の買い出し中の人なんだが、早く帰らないと昼寝中のアトラスが泣きかねない。
…アトラスの名誉のために言っておくが、別にアイツは雷が苦手とか言う訳じゃないぞ?
ただ、起きた時に俺がうちにいないと見捨てられたと勘違いすることがあってだな。
夢見が悪かったりするとなるんだが、そうなると泣くしわめくし大変なんだ。
なだめるにも時間がかかるし、それ以前に何をしでかすかわからないし。
…何をしでかすかわからないのは普段もなんだが、その規模がな…
詳しく語る気はないし思い出したくもないが、キューテスを筆頭に以前の職場の面々をことごとく巻き込んだあの時の騒動は思い出すだけで頭痛がする。
あー…
それでも見捨てようって気が起きるどころかそうまで求められてるって嬉しいのは余程重症って事なんだろうな。
…まぁ流石にもうあんなのはゴメンだが…いやゴメンだからこそ早く帰りたい。
ただ、わかるとは思うが一度避難してしまうと濡れに出るのは正直かなりの精神力が必要だ。
どうしたもんか、と道に面したガラス越しに外を眺めていると、道路の人混みの中に何やら見覚えのある傘が見えた。
気がした。
気がしたというのは見えたのが一瞬だったのと何処にでもある小豆色の傘だったからなんだが…
気のせいだと見逃して泣かれるのと勘違いで少し濡れるのどっちが嫌かと言われたら、俺は迷わず前者だね。
俺はウエイトレスさんにすぐ戻る旨を伝えると、今は浮いて見える傘の元まで駆け寄った。
その下には案の定アトラスが居て。
予想と違うのは表情で、案外普通に笑っていた事か。
「どした、アトラス」
「迎えに来たよ」
言うアトラスの手元には、俺が普段使っている紺色の傘が畳まれたまま握られていた。
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