つばさをもつものたち

□好きだけど好き
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8月の折り返し地点を目前に控えた、陽炎どころか蜃気楼まで見えるんじゃないかと思うほどに暑い日。
俺はアトラスと共に列車に揺られていた。
列車とは言っても座席があって空調完備とか豪勢な物じゃない。
そもそも旅客列車なんてモノは俺らの世界には存在しないからな。
…貨物列車の空になった1両に、ちょっとしたツテで乗せてもらったのだ。
そうまで涼しい物ではないが、炎天下を飛んでいくよりはずっと快適だ。

「ジェネ、楽しみだね!」

アトラスの言葉に、俺はあぁと生返事を返す。
アトラスはニコニコしているのだろう。
見ていないから確信はないが、雰囲気と声でなんとなくわかる。
流れる程に田舎になっていく景色をぼんやり眺めながら、俺は何とも複雑な思いで溜息をついた。


つばさをもつものたち〜好きだけど好き〜


先日の夜、一部の人間界から多数の細い煙がたちのぼった。
…と、毎年恒例のニュースがやっていた。
こう毎年毎年だといい加減報道する側もされる側も飽きると思うんだが、少なくとも俺は飽きよりもあぁもうそんな季節かという感想の方が強い。
いや、もうそんな季節なのは前からの準備でわかっていたんだが、目で見るとやはり痛感するな。
上がってくる煙は迎え火という、人間の風習。
毎年こう煙を上げて、死者の霊を迎えるというお盆のはじまりの行事。
…そう、お盆の季節ってヤツだ。
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