交易品

□おくる言葉、であります
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だから僕は、おくります。


ケロロ軍曹
〜おくる言葉、であります〜


例えばよくあるドラマみたいに、卒業式のこの時期に桜が満開みたいな事なんか現実ではそうありはしない。
ご多分に漏れず、僕らの学校だって桜は漸く蕾が膨らみ出したくらいで、満開以前の問題だ。
けれど空は気持ちよく透き通っていて、校長先生はそれを卒業生達の前途に例えて長話を続けている。
そんな話を聞き流しながら、僕は卒業式の列の外…
校舎の屋上の片隅に座って、ぼんやり空を眺めていた。
こういうサボりは僕らしくない。
でも、オカルト同好会を立ち上げた僕は3年生に殆どお世話になってないし、一番大切な人がサボッて参加しない卒業式なんて…
サブロー先輩が居ない卒業式なんて、僕には出る意味ないから。
そして、きっとサボッたサブロー先輩は…

「…冬樹君?」

ほら。
一人になれる場所を探して、屋上に来るに違いないんだ。

「お先してます」

言えば、目を丸くして驚いていたサブロー先輩は、

「冬樹君に見送られたくなくてこっち来たのに…」

まいったなと笑いながら、それでも僕の隣で仰向けになると空を見下ろした。
それにつられて僕も空を見上げる。
眠気すら誘っていた校長先生の長話は、いつの間にやら生徒達の歌声に変わっていて。

「…この1年、楽しかった」

ぽつりと寂しげに呟いたサブロー先輩に、僕はそうですねと頷く。
…ホントに、いろいろあった。
吉祥学園に入学して、軍曹達と出会って、サブロー先輩と知り合って。

「最初俺の事ブラックメン扱いだったもんなぁ」

「…あの時はすみませんでした」

でも、仲良くなって。
それから、海に行ったり海底に行ったり、空を飛んだり宇宙に行ったり、過去に行ったり小さくなったり、スキーに行ったり遭難しかかったり、運動会や遠足があったり、襲われたり拐われたり…
とても1年の出来事とは思えないくらい、軍曹絡みだったりなかったりする様々な事があった。
その全部にサブロー先輩が関わった訳じゃあないし、サブロー先輩も僕の知らない出来事に関わってるんだろう。
だけど、僕を何度も助けてくれたサブロー先輩は、僕の事を信じてくれた。
ラジオパーソナリティの623は自分だって、話してくれるくらいに。
だから僕だって、サブロー先輩を信じた。
いつの間にかその信頼は愛情に変わってたんだけど、それはお互い様だったから。
サブロー先輩んちに泊まったり、キス以上の事をした…り……
……ホントに、いろいろあったんだ。



そんな1年は、そろそろ終わる。

「俺さ、冬樹君と居れて良かったよ」

高校に進学してしまうサブロー先輩とは、今程は簡単には会えなくなる。

「サブローとして、こんな幸せになれるなんて思って無かったから…」

だけど、

「だけど、も…ぐふっ」

サブロー先輩が言葉を言い切る前に、僕は頭がサブロー先輩のお腹に来るように横になった。
手加減しないで倒れたから痛かっただろうけど、続くであろう言葉を言わせたくはないから。

「4月になったら、お花見しましょうね」

そう言えば、サブロー先輩はあわてて身を起こす。

「いや、なかなか会えなくなると俺耐えられないから、いっそ別れた方が」

「嫌です」

キッパリ言うと、サブロー先輩は言葉に詰まった。
そりゃ僕だって、先輩が真剣に別れたいなら考えるよ。
だけど、嫌だと言われたこの態度。
失意じゃなくて何かを期待してるみたいな眼差しを向けられたら、そうじゃない事なんか丸分かり、バレバレだ。

「僕はサブロー先輩と他人になる方が耐えられませんよ」

サブロー先輩はどうですか、とわかりきった質問をすれば、サブロー先輩は僕をぎゅうと抱き締める。

「…後悔しても知らないよ、こうなったらもう絶対離さないから」

決意すら感じる口調で宣言したサブロー先輩に、僕は体を預け…

「そこに誰かいるのか!」

突如飛来した生活指導の先生の声に、僕達は慌てて逃げ出した。
卒業式に戻れもせず、結局このまま校外に逃げる他なくなったけど、つまりそれでサブロー先輩は中学生活終了って事。
それじゃあんまりにも味気無いから、

「サブロー"さん"」

僕は最後に、言葉と気持ちを贈ることにした。
後輩としてじゃなく、恋人として。

「末永く、お願いします」

「…こちらこそ!」

向き合って、笑いあって。
僕達は2人並んで、開けっぱなしの校門を突破した。

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