僕らの旅行記

□食育係
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これ恋人ってか親みたいだよな。


僕らの旅行記〜食育係〜


ばっしゃあん、という大きな水音と共に、定期船に襲いかかってきたクラーケンは力つき、海に落ちた。
様子を物陰から伺っていた船員達は1人、また1人と顔を覗かせる。
倒せたのだろうか、という彼らの不安を拭うため、クラーケンと対峙していた俺は剣を高々と掲げ、隣で共に戦ったリオンの肩を抱いて叫んだ。

「俺達の勝ちだあっ!」

直後船に響く歓声。
そんな様子をホッとしながら眺めていたら、抱かれたままのリオンがぽつりと呟いた。

「まるで道化だな、スタン」

…さっきの叫びが馬鹿みたいだったのは俺自身が一番実感してるから、あえて指摘しないでくれないか…



ところで、リオンは恐ろしく食わず嫌いが激しい。

…え、直前とあまりに脈略がないって?
ちゃんと繋がるから、もう少し聞いててくれよな。

とかく、リオンは食わず嫌以下略。
みんな普通に美味しそうに食べてるものでも自分が食べた事がないと取り合えず食べないし、いわゆる珍味なんか余程じゃない限り口にしない。
以前あった所では、ハチノコとか見せただけで

『人間の食べる物じゃない!』

だったしな。
まぁ…流石にハチノコは仕方ないと思うけど。
リーネでも食べるヤツはそうそう居ないもんなぁ。

でもさ、なるべく食の幅を広げないとリオンが人生損してる気がして嫌なんだよ。
それに栄養どうこうもあるから、俺は極力何でもリオンに食べさそうとしてる。
力づくじゃないぞ。
言葉とか知恵とかそういった物でだ。

……誰だ、今俺じゃ絶対リオンには敵わないだろうなって思ったヤツは。


それで今回、何でこの話になったかって言うと。
クラーケンを倒した途端緊張が切れて船酔いが再発したリオンを気遣ってくれた船員さんが、倒したクラーケンを水あげして取った肝を酒蒸しにしてくれたんだ。
古来クラーケンの肝は船酔いによく効くって言われてるからね。
酒蒸しなら魚介嫌いが気にする生臭さも飛んでくれるし、実はクラーケンの肝は結構サッパリしてるんだ。

…実は他の部分はちょっと癖があってクドいんだけど、俺はこっちも好きだぞ。

何にしても、これならリオンも食べられそうだ、と俺はお礼を言って受け取って。
ところが、というかやはりというか……
リオンは俺が持っていったそれを一別しただけで、

「いらん」

とだけ言ってベッドに潜り込んでしまった。
これが何かの説明すらしてないぞ!

「聞きたくない」

ぅえぇー……
恐らくみてくれがリオン的に相当お気に召さなかったんだろうな。
サッパリしていけるぞとか、一口だけでもいいからとか、船酔いに効くらしいぞとか言ってもリオンはいらん食わんの一点張り。
というか船酔いに効くらしいで動かないってのはホント相当に見た目が嫌だったんだろうな。
まぁ部分とはいえ臓器はなぁ…
多少見てくれグロテスクだから仕方ないか。

グロテスクな部分のが栄養高いんだぞ!

…いやいや、でもフォアグラは食べるもんな。
確かあれだって何かの肝だった筈だろ?
それを指摘したら

「それを言うな、食べられなくなるだろう」

…あー。
うん、これは駄目だ。
このまま言い合ってるだけじゃ絶対に食べないぞ。
それどころか食べれない物が増えんばかりの勢いだな…
俺は溜息ひとつついて立ち上がると、酒蒸しの乗った皿を持って部屋を出た。
仕方ない、ちょっと手間だけど最終手段を使うとしよう。



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