僕らの旅行記
□刃二振り持つ英雄、だコロン!
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ここは、とある地下の酒場。
暗くてよくは見えないけど、3人が何かを話している。
「何故、俺は英雄ではないのだ!?」
「それはきっと、他に英雄が居るからでヤンス」
「そう、英雄スタン。あの子さえ居なければ…」
「よーし!ならば奴を倒せばいいのだ!」
彼らの馬鹿笑いは、酒場の主人につまみ出されるまで延々と地下に響いた。
迷惑な話だね。
僕らの旅行記
〜刃二振りもつ英雄、だコロン!〜
それは、ご存知我等がスタンとリオンが陸路でハイデルベルグに向かうため、ハーメンツに来た時の事。
とりあえず宿に荷物を置いてから、歓迎はされないだろうけど根はいいお金持ち、ヴォルトに挨拶でもしようか、なんて外に出た。
途端降り来る何者かの声!
「見つけたぞ!スタン・エルロン!」
2人がザッと辺りを見回せば、人混みから1歩前に踏み出した3人集。
声を出したのは中心でスタンを指差す、剣士風の若い男。
彼を取り巻くように、戦士風のふとっちょ、そして軽快な身なりの女性。
彼らはどうやらスタン達を知っているみたいだけど、どうやらリオンは全然思い出せないみたいで頭を抱えている。
それはスタンも同じなのか、あるいは覚えていたからなのか、
「おもいきりひとちがいです」
なんてしらばっくれた。
目は半開きで本当にどうでも良さそうだね。
まさかしらばっくれられるとは思わなかった3人と、まさかスタンが今更他人にそんな目を向けるとは思わなかったリオンはポカーンとしてしまった。
けど、スタンはリオンの手をって、
「はいはいごめんなさい通して下さいねー」
なんて言いながら野次馬の間から逃げようとして。
「…いや、いやいや待てぃ!」
…けれど逃げるより早く立ち直った男に呼び止められたので、スタンは仕方なく止まる。
「で、何」
という声にも覇気がまるでない。
こんなに気だるそうなスタンは初めて見るな、とリオンが思わず呟くほどのダレっぷり。
こうまで来ると余程関わりたくない相手なんだねぇ、スタン。
「誰かは覚えてないけど関わりたくはなくない?」
あぁ成程、ごもっともだね。
リオンも納得してうんうん頷いている。
なんて話してるのも気に止めず、3人組は知らないというなら名乗ってやる、とマントを広げた。
可愛らしくクルンと一回転し、胸をつき出すようなポーズをとった女性は名乗る!
「黒薔薇の、ミリー!」
筋肉をアピールするため3種類くらいのポーズをとったふとっちょは名乗る!
「大食いの、ジョン!」
そして、リーダー格である剣士は天を指差し高らかに名乗る!
「音速の貴公子、グリッドぉ!」
更には全員がバラバラに決めポーズをとりながら、声だけは合わせて名乗る!
『我ら伝説の英雄レンズハンター、漆黒の翼!』
決まった。
彼らの頭の中には、今それしかなくない。
だから実はスタン達が既に立ち去っていたことには気付かなかった。
更には野次馬の人達が
『かっこいいぞー!』
『舞台はいつやるの?絶対に見に行くわ!』
なんて言いながら放ってくるおひねりをセコ悲しくも拾い集めだしちゃったから仕方ない。
かくして、スタン達はとりあえず漆黒の翼から逃げおおせたのであった。
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