僕らの旅行記

□食育係
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しばらくして部屋に戻ると、リオンは起き上がって俺の作っといたレモン水を飲んでいた。
足取りもしっかりしているから思ったより酔いは酷くなってなさそうだ、良かった。
最悪真っ青になって起き上がれなくなってる場合もあるからなぁ。

「…何をして来たんだ」

不安そうに声をかけてくるリオンに、俺はニカリと笑ってお皿を付き出した。
乗ってるのはさっきのクラーケンの肝だけど、さっきとは少し違う。
ちょっと大きかったから一口サイズに切り分けて、リオン好みのソースをかけてみたんだ。

ホラ、ソースかけると見た目のグロテスクさも緩和されるし、味だってよりリオン好みに調整できるしいいかなーって。
ソースは俺の手作りだから調整は細かいぞ!

……意外そうにしないでくれよ……
そりゃマリーさん程じゃないけど、俺だって料理は出来る。
これでもリオンには昔『マリアン並だ』って賛辞をもらってるんだからな!

話がそれたね。
これだけやってきたけれど、リオンは案の定いらないと言って皿を押し退けた。
でも、別にガッカリはしない。
だって、リオンの視線は料理から離れないからさ。

どうやら、食べてみたいとは思ってくれたみたいだな。
ソースの香りが良かったからか、見た目がマシになったからは知らないけど。
それでもいらないと突っぱねたのは、さっき断った手前食べるとは言いづらいから。
ゴクリ、とノドまで鳴らしてもかたくなに食べないいらないと言うリオンは何だか可愛い。
そんな意地張る事ないのになぁ。
さて、それじゃあこの可愛い意地っ張りの望みを叶えて差し上げるとしようか。

「ソース作ってみたから試食してみてくれよ」

一口だけでいいから!
と頼み込めば、プライドの高いリオンは自分に食べて"やる"のだという言い訳が出来る。
ふぅと呆れたように言いつつも少しだけ顔を綻ばせたリオンは、

「仕方ないな、今回は特別だぞ」

なんて言いながらひとつつまんで…よし、食べた!

「味は?」

「悪くない」

食べられないではないと言わんばかりの物言いだけど。2つ目をつまんでいる所を見ると…結構お気に召してくれたみたいだ。
よしよし、これでリオンの食の幅がひとつ広がったぞ。
内心ガッツポーズを取りながら、俺も自分でひとつつまんでみる。
…そこそこ美味しいけど、やっぱ俺には薄いかな。
これなら何もつけないで食べても良かったかも、と呟いた俺に、リオンはそれはないなと断言して。

「お前が作った物はハズレがない」

それは…俺がリオン好みで味をつけてるからだよ。
と言う前に、リオンはだから、と言葉を続ける。

「お前が作った物なら無条件で食べないでもない」

…え、それって…!

「リオンっ!」

言ってくれた予期せぬ言葉に、俺は嬉しさ余ってリオンに抱きついた。

「待てっ!こうなる理由がわからん!」

と顔を真っ赤にするリオンが必死に抵抗したけど、俺は構わず抱き締め続ける。
だって嬉しいじゃないか!
あれだけ偏食なリオンが、俺が作ったなら無条件で食べてくれるんだぞ。
マリアンさんだってそうは行かなかったのに!
どれだけ俺が特別に思われてるかって思うと…

「いいから離せっ!」

俺を思うさま蹴り飛ばしたリオンは、真っ赤な顔をベッドに沈めてしまった。
そんな様子も愛しい俺は、もう手の施しようがない重傷だなぁ。



ちなみにその後、定期船を降りるまでリオンは船酔いになることはなかった。
でも、それはクラーケンの肝が効いたからなのか、照れて一杯一杯だったからなのかは今となってはわからない。

まぁ、どっちでもいいけどな!
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