ケロロ短編

□ケロロ 緊急事用撤退訓練
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「嘘?」

端的にタネ明かしをすると、睦実さんは何ともなさそうな声を引きつった口からもらした。
そんなに僕が騙したのが意外だったのかな?
そのギャップがおかしくて、僕は笑いを堪えながら詳しく説明する。
とはいっても

「僕は軍曹に頼まれ事はしてないんです」

の一言で事足りてしまうのだけど。
睦実さんはよく察してくれる人だから、今回もあぁ、と納得すると、

「つまりケロロをダシにして逃げ出した訳か」

と核心をついてくれたので僕は頷くだけでよかった。
まぁ『軍曹に頼まれた』なんて僕は言ってないから嘘をついた訳じゃないんだけど…
誤解させるように言ったんだから同罪だろう。

「そもそも僕が睦実さんとの約束をすっぽかそうとしたのがいけませんでしたね」

すみませんでしたと謝ると、睦実さんは僕をきつく抱き締めた。

「…俺より西澤さんが大切なのかって思ったよ」

という口は、少し震えていて。

「そんな訳ありませんよ」

回した掌で睦実さんの背中を撫でてなだめれば、睦実さんは痛いくらいに腕に込める力を強めた。
痛いですと訴えても、放してくれる気配はない。
でも、仕方ない事だから、本気でやめてもらおうとは思わなかった。

…不安にさせちゃったんだろうな。

僕が西澤さんの方が大切なのかもしれない。
約束をすっぽかしてまで西澤さんを優先したから。
きっと防災館でいろいろ変な行動をしていたのも、不安を誤魔化すためだったんだろう。
僕にはそんなつもりはなかった。
でも、不安を煽ったのは事実で。

…さっき、西澤さんと合流する前に言った事。

『冬樹君は桃華ちゃんとの事で邪魔してほしくなかった?』

っていうのは、不安と、嫉妬から来たんでしょう?
不安にさせてすみません。
嫉妬させてすみません。
でも。

「普段は僕が嫉妬してばかりですから」

言うと、睦実さんはぴくりと反応した。
例えば、ファンの子達に囲まれてる時。
例えば、姉ちゃんと話してる時。
僕は要らないのかって不安になって。
僕の方を見てって嫉妬して。

「だから、謝りませんよ」

お互い様だから。
お互い信じきれず、お互い不安にするから。
今まで僕ばっかりだったから、そのお互い様なのが変な話嬉しくて。

「言ってくれなきゃわかんないよ」

「僕だってそうですよ」

僕の体を放し、代わりに手を繋いだ睦実さんと言い合いながら。
泣きそうな笑顔を2人して向け合いながら。
もう、お互い半端に逃げないと内心決意しながら。
僕達は睦実さんちに行くため、駅に向けて歩きだした。
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